千葉|建築

千葉県立美術館|メタボリズムの建築家による海辺の美術館

東京湾のすぐそば、千葉ポートパークに面して建つ千葉県立美術館。1960年代を中心に日本でメタボリズム・グループと呼ばれる建築運動がありましたが、その団体を代表する建築家の一人である大高正人さんの設計による美術館です。

大高さんといえば、神奈川県立近代美術館の鎌倉別館や群馬県立歴史博物館など、多くの公共美術館・博物館を手がけた建築家。2025年に国の登録有形文化財に指定されたこともあって、これを機に足を運んできました。

左:千葉県立美術館のすぐそばに位置するさんばしひろば/右:千葉県立美術館のすぐそばに立つ案内板。JR千葉みなと駅から歩いて12分ほどの位置、海のすぐそばに建っていることがわかる

千葉県立美術館を北側道路からみる。勾配屋根のため周囲への圧迫感はほとんど感じない

美術館エントランスへのアプローチ。たくさんの建屋の間をくぐり抜けるように動線が計画されている

左:美術館の館内マップ。展示室を連続させずあえてバラバラに計画されたことが読み取れる/右:訪問した際には登録有形文化財(建造物)に登録されることが目立つ位置に掲示されていた(後に登録)

エントランスホール。屋根は大部分がガラスで計画され明るい。左の写真はエントランスホールに併設されたワークショップスペース。こういったスペースが計画されているのは公共の美術館ならではともいえる

講堂やアトリエ等、展示室以外の諸室の中央に設けられているラウンジ。展示室群とはエントランスホールを挟んで反対側に配置されている。正面に見えるのは講堂への出入口、右手は情報資料室

右:ラウンジの天井は勾配屋根の形状を活かした意匠計画がなされている。柱から伸びる黒く塗られたスリットは、樹木から枝が伸びる様子をイメージしたものだろうか/右:スリットの間にはライティングレールが設けられている

8つの展示室のほぼ中央に設けられているロビー。勾配屋根の形状を活かしたこの美術館で最もダイナミックな空間。右手にみえる大空間は第7展示室にあたる

ロビーに並ぶ鉄筋コンクリート柱は上部でT型に分かれ、屋根を支える鉄骨梁を2本ずつ支持している。柱のプロポーションも柱の長さに対して細く緊張感を生んでいる

第4展示室。訪問したときには使われていなかったが正面奥の出入口から他の展示室と行き来できるよう

第5展示室。両脇の天井高が高く計画されており展示動線に合わせて空間のメリハリがつくられている

美術館内部のコンクリート打放しの部分はハツリ仕上が採用されており、内部の骨材が露出している。室によって骨材に変化が付けられており、展示室内は茶色の混じったにぎやかな印象の骨材が使用されていた

第7展示室。訪ねたときは使用されていなかったが壁から吊られた鉄骨は展示のためのものだろうか

美術館内の廊下にはところどころに窓が設けられており屋外の風景が覗く

美術館のレストラン。訪ねたときには既にレストランとしては使用されていないようだったが来館者の休憩場所として開放されていた

展示室の間に設けられた中庭側は、勾配屋根から連続するように軒が大きく張り出している。軒下はヒューマンスケールを感じる落ち着きのある居場所になっていた

千葉県立美術館の外観。様々な形・プロポーションの展示室が集まってひとつの美術館を形成していることがよくわかる。海辺に建つ集落のような美術館

屋外にもあちこちに彫刻作品が置かれている。外壁の仕上に用いられているタイルは塩害や粉塵によるコンクリートへの影響を抑えるために採用されたとのこと。溝型せっ器質タイルをモルタルで積み上げ、それを型枠にしてコンクリートを打設したのだそう*1

*1:『新建築1976年10月号』(株式会社新建築社発行,1976)より

ポートパーク側からの美術館細谷悠太建築設計事務所外観。張り出している低層部はレストラン(当初。訪問したときは休憩室利用)。

ポートパーク側の外構は細谷悠太建築設計事務所による設計で2023年にリニューアルしているよう。白い帯状の工作物は同設計事務所による《みちのにわ》。

冒頭に書いた通り、この千葉県立美術館は2025年に国登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録時の概要を見ると、グリッド状に配置された展示室が拡張可能であることが、特徴の一つとして記されています。*2

*2:千葉県立美術館HPより。(URL:https://www.chiba-muse.or.jp/ART/news/news-9494/

大高さんが加わったメタボリズム・グループは、建築や都市に新陳代謝という概念を持ち込み、可変性や拡張性を追求した建築運動。展示室が拡張可能であることはこの思想に通じるところがあり、そのことも登録のきっかけの一つとなったのかもしれません。

大高さんはこの美術館を皮切りに、群馬県立歴史博物館(1979年竣工)、福島県立美術館(1984年竣工)、神奈川県立近代美術館別館(1984年竣工)などを設計しています。これらを手がけるきっかけとなった作品でもあり、貴重な空間体験となりました。

千葉県立美術館
[所在地]千葉県千葉市中央港1-10
[用途]美術館
[設計]大高建築設計事務所(建築)、木村俊彦構造設計事務所
[施工]竹中工務店(建築)
[竣工]1974年(展示棟)、1976年(管理棟)
[URL]https://www.chiba-muse.or.jp/ART/

[参考書籍等]
・『新建築1976年10月号』新建築社、1976