埼玉|建築

埼玉県立近代美術館|建築家・黒川紀章の設計による公園の美術館

六本木に建つ国立新美術館を始めとして、数多くの美術館や博物館の設計を手がけた建築家・黒川紀章さん。埼玉県浦和市の北浦和公園内に建つ埼玉県立近代美術館も、彼の代表作のひとつとして知られています。

JR北浦和駅から徒歩10分以内の土地に建っていて、東京駅からでも1時間かからない距離にある美術館。気になる展覧会が開催されていたこともあり、久々に足を運んできました。

左:北浦和公園から美術館を見る。周囲を多くの木々に囲まれている/右:北浦和公園の案内図。一見広大な敷地に見えるが、美術館を建てられる範囲は厳格に決められていたそうで建ぺい率は5%ほどに抑えられているそう*1

*1:『新建築 1983年1月号』(株式会社新建築社発行,1983)より。

美術館外観(遠景)。北浦和公園には元々旧制浦和高等学校が建っていたそうで、美術館を設計する際にも並木道の並木の保存が求められたそう*1

美術館外観(近景)。エントランスの前面にはグリッド状のフレームが設けられており、公園と美術館とをゆるやかにつなぐ中間的な領域を生み出している。形状こそ異なるが、グリッド状のフレームをアプローチ部に設置する手法は黒川さんが後年に手がける《名古屋市美術館》(1988年竣工)でも踏襲されている

美術館のエントランス。エントランスまわりのガラス・カーテンウォールはぐにゃぐにゃとした曲面を描いているが、これもまた《国立新美術館》(2006年竣工、日本設計との共同設計) など黒川さんの手がけた建築ではよく見られる手法

1階エントランスホール。屋外に面して大きく窓が設けられた開放的な空間

館内各所には世界各地のデザイナーによる名作家具が点在しており、実際に座ることができる。日本ではなかなかお目にかかれないものも多く体験できるのは貴重

ガラスに刺さったかのように設置されているのは田中米吉氏による美術作品《ドッキング(表面)》(1985)。2014年に美術館の改修を行った際、この作品のタイルの貼替も合わせて行われたそう*2

*2:埼玉県立近代美術館のHPより。収蔵品紹介のページからは展示されている美術作品の概要を知ることができる。(URL:https://pref.spec.ed.jp/momas/%E5%8F%8E%E8%94%B5%E5%93%81%E7%B4%B9%E4%BB%8B

館内各所にもあちこちに美術作品が展示されている。左は宮島達男氏による《Number of Time in Coin-Locker》(1996)、右はアリスティド・マイヨール氏による《イル・ド・フランス》(1925)

屋外にも美術作品が点在している。建物と連携した作品が多く見られることもこの美術館の特徴のひとつ。左の写真は橋本真之氏による《果実の中の木もれ陽》(1985)、右の写真は重村三雄氏による《階段》(1989)

展示室。地下1階から2階まで3層に渡って設けられている

地下1階の展示室はセンター・ホールを取り囲むように配置されている。センター・ホールの中央に展示されているのはジャコモ・マンズー氏による《枢機卿》

センター・ホール。奥行の深い建物ながら中央に位置するこの室にトップライトを設けることで自然光を導いている。この美術館の竣工は1982年だが、近年の美術館と比べると装飾的に感じられる

センター・ホールのトップライト。多角錐が4つ集合してひとつのトップライトを形成している。黒川氏の設計した建築では円錐や多角錐といったモチーフが多く見られるがこれもそのひとつ

1階に併設されているレストラン・ペペロネ。併設されたレストランは公園から直接出入りすることが可能

先述した国立新美術館の他にも、名古屋市美術館や広島市現代美術館など、数多くの美術館を設計している黒川さん。一方、埼玉県立近代美術館が1982年に竣工した当時はまださほど美術館を手がけておらず、黒川さんにとって初期の美術館のひとつにあたります。

メタボリズム・グループ*3の代表的な建築家として知られる黒川さんですが、メタボリズム建築の代表である中銀カプセルタワービルは1972年の竣工で、この美術館より10年前。この美術館からはメタボリズムの要素はあまり感じられず、どちらかというと6年後に竣工する名古屋市美術館に類似した部分が多々みられることからも、移行期の作品といえるのかもしれません。

美術の所蔵作品が充実していることはもちろん、館内のあちこちには名作とされるデザイナーズチェアが置かれていて、建築分野の観点から興味を惹かれる部分が多数あり。建築をテーマにした展覧会もたびたび開催されているので、また近いうちに訪れたいと思います。

*3:黒川紀章氏や菊竹清訓氏をはじめとする日本の建築家・都市計画家により結成されたグループで、主に1960年代から1970年代初頭に活動した。新陳代謝を意味する「メタボリズム」という言葉に表れているように、可変性や増築性に対応した建築・都市を構想した。黒川氏の設計による《中銀カプセルタワービル》(1972年竣工)はメタボリズムを体現した代表的な建築のひとつ

埼玉県立近代美術館
[所在地]埼玉県浦和市常盤9-30-1
[用途]美術館
[設計]黒川紀章建築都市設計事務所(建築)
[施工]戸田・和光建設特別共同企業体(建築)
[竣工]1982年
[HP]https://pref.spec.ed.jp/momas/

[参考書籍等]
・『新建築1983年1月号』新建築社、1983