だいぶ時間が空いてしまいましたが、前回に引き続き清原芸術村について。清春芸術村内にはラ・リューシュの他にも多くの建築が建っています。安藤忠雄さんや谷口吉生さんをはじめとする有名建築家の設計による建築群のレポートです。
光の美術館|光であふれるコンクリートの箱
安藤忠雄さん設計による光の美術館は、ラ・リューシュの奥にぽつんとたっていて、美術館というよりもどこか教会のような佇まいでした。装飾のないシンプルなコンクリートの箱であることで、安藤さんの十八番とも言える二本並びの雨樋が外観上のアクセントに。
内部に入ると照明の類はほとんど見られず、明るさをつくるのはコンクリートの箱の切り欠いてつくられたトップライト、縦に細長く開けられたスリット窓からの自然光のみ。それでも暗さを感じることはなく、訪ねた日は空が曇っていたこともあって、館内は柔らかな光に溢れていました。
2層分の吹抜に展示された絵画は迫力大。ちょうど吹抜直上に屋根を真っ二つに割りそうな勢いでトップライトが開いていることもあって、晴れた日に空から直接光が差し込むとまた違った表情の空間になりそうです。
2階建ではあるものの、階がつながったワンルームの美術館というよりはギャラリーのような大きさの建築。学芸員の方もこの館内には常駐しているわけではないようで、誰もいない静けさの中で絵画や空間を体感できました。
光の美術館
[設計]安藤忠雄建築研究所
[竣工年]2011年
※所在地等その他情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
茶室 徹|ヒノキの上にたつ茶室
光の美術館と同じく村の奥にぽつんとある、藤森照信さん設計の茶室徹(てつ)。同じく藤森さんの設計で長野県にある高杉庵に似ていつつも、こちらは若干低く可愛らしいプロポーション。
ちなみに高杉庵は地上約6m、対してこちらの茶室徹は地上約4mの高さだそう。清春芸術村のサポーター会員になればこちらは内部見学もできるとのことなので、一般の方が入ることを想定して使い勝手、安全性を考慮した結果なのかもしれません。
茶室 徹
[設計]藤森照信+大嶋信道(大嶋アトリエ)
[竣工年]2006年
※所在地等その他情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
白樺図書館|絵本に出てきそうな佇まいの図書館
北側の小高い丘の手前に建つ白樺図書館は、何かの絵本に出てきそうな、かわいらしい佇まいの建物でした。調べてみたけれど設計者は出てこず。かわいらしく見えるとはいっても外壁はコンクリート打放し。無骨な仕上げでもプロポーションでここまで印象が変わるのだと実感。
白樺図書館
[設計]不明
[竣工年]2003年
※その他の情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
ルオー礼拝堂|白樺林に佇む静謐な場
清春芸術村にある谷口吉生さん設計の3つの建物のうち、一番小さなルオー礼拝堂。コンクリート打放しの野生的な外観と対照的に、内部は光が柔らかに落ちる静謐な空間でした。
花弁のように広がった三方のアルコーブは上部にハイサイドライトがあいていて、曲面の壁を自然光が照らす。光の美術館と違ってこちらはハイサイドライトの補助として照明も用いられていて、そこからの暖色系の光が空間の印象にも大きく影響を与えていました。
定期的に祭事が行われているわけではなさそうでしたが、白樺林の奥にみえるその佇まいも含め、礼拝堂の名にふさわしい建築でした。
ちなみに施設名にも掲げられている通り、壁にはジョルジュ・ルオーの銅版画が数点。白樺派はルオーの作品を好んだようで、後述する清春白樺美術館でも幾つか見ることができました。
ルオー礼拝堂
[設計]谷口吉生建築設計研究所
[竣工年]2010年
※その他の情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
梅原龍三郎アトリエ|茂みの奥の移築アトリエ
吉田五十八設計の梅原龍三郎アトリエ。元々1952年に市ヶ谷に建てられ、その後1989年にこの清春芸術村に移築されたそう。
訪ねたときは周りの茂みをかき分けるようにして到達。内部に入ることができず外観のみの見学でしたが、茶室 徹と同じく、メンバーシップに登録することで内部へも入れるようです。
梅原龍三郎アトリエ
[設計]吉田五十八
[竣工年]1989年(移築)
※その他の情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
レストランラ・パレット|緑に覆われた静かな佇まい
丘を登って右手にあるオーガニックレストラン、ラ・パレットは、たくさんの緑に覆われて見落としてしまいそうになる、静かな建築でした。後述する美術館と同じく谷口吉生さんの設計ですが、美術館のような堂々とした用途の建物以外で彼の設計を見たことがほとんどなく、この静かな佇まいは新鮮に映りました。
訪ねたときはコロナ禍もあってか営業しておらず。ただパーゴラの緑は青々と育っていて、この緑に囲まれたテラスでの食事は気持ちがよさそうでした。ちなみに周辺には他に食事をとれるところがないため、訪ねる際にはきちんと調べておくことをオススメします(痛い目を見た経験者談)。
オーガニックレストラン・ラ・パレット
[設計]谷口吉生建築設計研究所
[竣工年]1986年
※その他の情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
清春白樺美術館|人に寄り添う親密さのある美術館
清春芸術村の最奥で辺りを見守るようにして建っている、清春白樺美術館。谷口吉生さん設計の美術館ということで緊張感のある空間を想像していたものの、実際にはヒューマンスケールの、人に寄り添った建築でした。
一筆書きの動線などからは谷口さんの美術館らしさが感じられつつも、天井高も抑えられていて、友人の家に遊びにきたかのような親密さのある空間。1983年というと同じ谷口さん設計の土門拳記念館がオープンした年でもあって、全く違った空間を同時期につくるその振り幅の大きさに驚かされます(ちなみに館内は写真撮影禁止)。
訪問したときは収蔵品の展示と企画展が同時開催。企画展は写真家でピカソの友人でもあるデヴィッド・ダグラス・ダンカンが、ピカソの日常の風景を写した展覧会。撮影の時点で既に高齢であるものの、ピカソのものすごいエネルギーが伝わってくる写真ばかりで圧倒されました。
清春白樺美術館
[設計]谷口吉生建築設計研究所
[竣工年]1983年
※その他の情報は記事末尾の清春芸術村に準ずる
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今回訪問した建築は以上です。ただ、帰ってきてから他にも見落としがあったことが判明。新素材研究所が設計したゲストハウスなどは必見のような気もするので、次回こそは忘れずに訪ねたいと思います。
清春芸術村
[所在地]山梨県北杜市長坂町中丸2072
[開館時間]10:00-17:00(入館は16:30まで)
[休館日]年末年始・月曜日(祝日の場合は翌平日休み)
[入館料]一般1,500円/大高生1,000円/小中学生入場無料