前回取り上げたポーラ美術館、満を持して訪問したきっかけは、昨年末から今年3月にかけて開催されていた二つの展覧会でした。その一つであるロニ・ホーン展「水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」は、美術館の空間がいかんなく発揮された展示構成がとられており、建築の立場からみてもとても見応えのある展覧会でした。
ロニ・ホーン展「水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」
ロニ・ホーンさんは1955年生まれ、アメリカを拠点に活動する現代美術のアーティスト。写真や彫刻、ドローイングなど様々な媒体を駆使した作品を制作しており、この展覧会でも多種多様な作品が展示されていました。彼女の作品はMoMAなどに収蔵されており、テート•モダンを始めとする世界各地の美術館では個展も行っています。ただ、日本で行われる大規模な個展としては今回が初となるようです。
この展覧会は地下1階の展示室1と地下2階の展示室2に加え、屋外の散策路も展示に活用して行われていました。聞いたところによると、ポーラ美術館でもここまで大規模な展覧会が行われることはあまりないそう。
自然を想起させる作品群と背景にひろがる大自然
展示を巡る中で最も強く印象に残ったのは、彼女のつくる作品とこのポーラ美術館の空間の相性のよさ。前回も書きましたが、ポーラ美術館の展示室はところどころから屋外の風景が見え、それが大きな特徴の一つとなっています。
展覧会名からもなんとなく感じ取れるように、ロニ・ホーンさんの作品の多くは自然、特に水を想起させますが、この展覧会ではそれらが並ぶ空間の背景に大自然がひろがっていることで、この美術館でしか実現できない空間が生まれているように感じました。
小さな湖のようなガラスの彫刻
例えば、ガラスの彫刻シリーズ。大きな大判焼きのようなかたちをしたガラスの塊を上から覗き込むと、表面にまわりの風景がぼんやりと映り込みます。この様子は湖の水面に映る像を思い起こさせ、自然のゆらぎのようなものを感じます。訪ねたときは降雪直後の真冬だったこともあり、屋外の枯れた木々の風景が映り込み、静けさや寂しさを伴う美しさを感じましたが、この展覧会開催当初、木々の葉がまだ残る9月頃にはまた違った様子が見られたかもしれません。
作品の一部としての展示構成
写真やドローイングなどの平面作品は、遠くから眺めたときと近づいて観たときの印象が変化する作品が多数。例えば、遠くからは赤色の紐のかたまりを描いたようにみえる上のドローイングは、近づくと細かく裁断され鉛筆書きのテキストも多く描かれていることに気がつき、作品に対する印象が大きく変化します。
遠くからは水面を写した写真に見える上の作品は、近づくと小さな数字があちこちに描かれており、それぞれの数字と対応するテキストが作品の下部に並べられていることに気が付きます。
これらは作品そのものだけでなく、それらのみえ方もコントロールされており、それらの展示構成もまた一つの作品のように感じました。他の作品でも水平連続窓のように並べられた写真群など、建築と通じ合う部分が多々感じられ、これらの展示風景も掲載された展覧会の図録は後にも度々見返すことになりそうです。
(追記)後から気が付きましたが、展示構成は建築家の西澤徹夫さんが手がけられていました。西澤さんならそりゃそうか、というさすがの展示構成…。
展覧会のためにつくられたかのような美術館の空間
なお、この展覧会は2つの階を利用して行われているため、展示を巡る途中で一度展示室を出ることになります。ただ、この展示室同士をつなぐロビー空間も青々としてどこか自然を感じさせ、まるでこの展覧会のために空間がつくられたかのように錯覚させられました。
この展覧会は3月末で終わってしまいましたが、屋外に展示されている作品『鳥葬』(2017-2018年)はポーラ美術館の所蔵。現在開催されている展覧会もおもしろそうなので、また緑豊かな時期に訪ねてみようかと思います。
ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?
[会期]2021.09.18-2022.03.30
[会場]ポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)
[開館時間]9:00-17:00(入館は16:30まで)
[休館日]年中無休(展示替えのため臨時休館あり)
[会場構成]西澤徹夫建築事務所