毎年10月に実施されている一級建築士の設計製図試験。設計対象となる建物の用途や要求図書は毎年変わるものの、課題文を読み込んで建物を設計し、文章や図面を作成する点はどの年も共通しています。
実務における設計製図がほぼCADに置き換わった現在、海外ではコンピューターによる試験を行っている国もあるようですが、日本での設計製図試験は原則として手描きのまま。一方、設計実務に携わっていない方は言うまでもなく、普段から設計業務に携わっている方でも手描きで製図をする機会はほとんどありません。
設計製図の試験ではどのような道具を使うのが良いのか?後輩に聞かれる機会も増えてきました。筆者は数年前に一度だけ一級建築士試験を受けましたが、その際に合格につながった体験談を交え、役に立った製図道具を以下にまとめておきます。
1.製図板(平行定規)
建築士の製図試験では、ほとんど必須ともいえる道具、製図板。製図試験用紙をテープなどで固定し、作図時の安定した土台とします。製図板は決して安くはないものの、設計実務において使う機会はほとんどなし。そのため、筆者は合格した先輩から譲り受けたものを使用、合格後は後輩に引き継ぎました。
一級建築士試験ではA2サイズの図面に対応した製図板を使用することになりますが、その大きさゆえに、かなりの重量。ステッドラーやコクヨといった有名メーカーのものであれば機能面で大きな差はない印象がありますが、新しく購入する場合、頻繁に持ち運ぶことを考えると少しでも軽量のものを選ぶのが良いかもしれません。
2.シャープペンシル(0.7mm)と柔らかい替芯(製図用)
設計検討から製図まで、一連の作業に使用するシャープペンシル。製図試験では鉛筆とシャープペンシルのどちらも持ち込み可能ですが、製図の際には0.7mmのシャープペンシルと柔らかい(濃い)替芯の使用がおすすめです。
設計製図の採点は、大量の試験用紙を限られた人数、限られた時間で行っているそうです。実際にその場に居合わせたことはないので半ば都市伝説のような話になりますが、1枚あたりにかけられる時間が少ない状況下、強弱のついた美しい図面の方が質が高く見え、合格に結びつきやすいようです。
線の太さを変えにくい鉛筆に対し、0.7mmのシャープペンシルに柔らかい替芯を使用すると、ペンの傾きを変えることで太い線と細い線が一本のシャープペンシルで表現することが可能に。仮に採点に結びつかなかったとしても、強弱のついた図面の方が描いていて気持ちが良いように思います。
なお、試験の要項には鉛筆(シャープペンシル)の濃さは「HB又はB程度」と示されています*1。あくまでもご自身での判断にはなりますが、可能であれば2Bなどの方がより美しい図面が描けるかもしれません。
*1:建築技術教育普及センターのHPにある注意事項には、必ず携行するものとして「黒鉛筆(HB又はB程度、シャープペンシルを含む。」と指定されている。(URL:https://www.jaeic.or.jp/smph/shiken/1k/notes_on_the_day.html)
3.消せる色鉛筆(エスキース用)
設計検討(エスキース)の際には描いて消してを繰り返すことから、上述の柔らかい替芯を使用するとどうしても手が汚れがち。手の汚れは試験用紙を汚すことにもつながりかねないことから、鉛筆やシャープペンシルに比べてやや手を汚しにくい、消しゴムで消せる色鉛筆を使用していました。
一般的な文房具店にはあまり置いてはいないものの、Amazonや大型文房具店では置いている色の幅が多く、好みに合わせて選べるのも魅力。試験勉強を少しでも楽しむことにも効果的かもしれません。なお、以下に挙げている参考製品は丸軸なので、机の下に落とさないように注意が必要です。
[参考製品]
・三菱鉛筆 消せる色鉛筆 ユニアーテレーズ カラー36色 > 商品リンク
・三菱鉛筆 消せる色鉛筆 ユニアーテレーズ オリエンタルブルー > 商品リンク
・三菱鉛筆 消せる色鉛筆 ユニアーテレーズ バーミリオン > 商品リンク
4.蛍光マーカー
問題用紙に色付けしてわかりやすくするための道具、蛍光マーカー。問題文の要点や設計条件、数字が明確な面積など、マーカーする対象の属性によって4〜5色を使い分けていました。
当初は消せる蛍光マーカーを使用していたものの、実際に消す機会はほとんどなし。消せる蛍光マーカーはインクが切れやすい印象があるので、試験途中でそうならないよう注意が必要です。事前に大量買いしておく手もありますが、個人的な体感としては、一般的な蛍光マーカーでも使い勝手に大差はないように思いました。
5.二種類の消しゴム+字消し版
製図やエスキースの際には、消しゴムで消す範囲は大きなものから小さなものまで様々。細かい作業にはペン型の消しゴムが便利ですが、それだけだとエスキースでの計画見直しがしにくいことから、直方体形状の一般的な消しゴムと併用していました。
消す範囲を限定できる字消し板を使用し、一般的な消しゴムのみで乗り切る手もありますが、薄い字消し板は焦ってくると目に入らなくなることもしばしば。細かなところはペン型の消しゴムの方が圧倒的に消しやすいので、字消し板と組み合わせて使用するのもおすすめです。
[参考製品]*Amazon商品ページにジャンプします
・トンボ鉛筆 MONO 消しゴム PE04 3個入 > 商品リンク
・トンボ鉛筆 ペン型消しゴム MONOゼロ 角型 > 商品リンク
・ステッドラー ステンレス製字消し板 > 商品リンク
6.三角定規(30cm・テンプレート付)+フローティングディスク
平行定規と組み合わせ、水平・垂直を描くのに必須となる三角定規。筆者は一般的な三角定規ではなく、内側にテンプレートの付いたものを使用していました。
設計製図の試験は主に時間との戦いになるため、道具を持ち替える時間は少しでも短縮したいもの。何かあったときのためにテンプレートも携行してはいたものの、実際にはほぼこの三角定規に付いたテンプレートで済ませていました。
テンプレート付の三角定規はツマミが付いており、取り回ししやすいのも利点。製図の際には後述する小さな三角定規を使用していましたが、通り芯を描く際などにどうしても大きな三角定規が必要になるので、こうした二役こなせる道具が便利でした。
なお、フローティングディスクというのは三角定規に貼り付けることで、その滑りをよくする製品。三角定規の取り回しをよくする、製図用紙を汚さないという点で、想像していた以上に有効な製品でした。
[参考製品]*Amazon商品ページにジャンプします
・バンコ 三角定規45°テンプレートプラス > 商品リンク
・ウチダ テンプレートツマミ付き三角定規 > 商品リンク
・ウチダ フローティングディスク > 商品リンク
7.三角定規(15cm)+フローティングディスク
設計製図はとても細かな作業の連続になりますが、その際に30cmの大きな三角定規だけだとどうしても手間がかかりがち。筆者は30cmの三角定規は通り芯を描くときのみ使用し、その他の作業は15cmの三角定規を使用していました。
製図用の三角定規は目盛のないものがほとんどですが、個人的には目盛有りの一般的なものの方が便利。30cmの三角定規と同じくフローティングディスクを貼り付けることで製図用紙との間に若干の隙間が生まれるので、シャープペンシルの芯が滲んで紙を汚すこともほとんどありませんでした。
8.製図用ブラシ
消しゴムで消した後の消しかすを払う際、製図用紙が汚さないために使用する製図用ブラシ。20cm以上の大きなものを比較的よく見かけますが、持ち物を少しでも減らすために、筆者はより小さな8cmほどのものを使用していました。
実際に使用する上では、どちらかというと大きなものの方が便利。ただ、使用頻度は高くないので好みに応じて選んで問題ないように思います。
9.その他便利な道具たち
上記の他にも、設計製図の際にあると便利な道具は多数有り。以下、特記すべきポイントこそないものの、筆者が携行した道具を挙げておきます。
ドラフティングテープ
製図用紙を平行定規に貼り付けるために、必須となるドラフティングテープ。マスキングテープを使用されている方もたまに見かけますが、粘着力が高いと試験用紙の表面を剥がしてしまいかねないため、基本的にはドラフティングテープがおすすめです。
[参考製品]*Amazon商品ページにジャンプします
・3Mスコッチ ドラフティングテープ 12mm×30m > 商品リンク
電卓
縮尺に合わせた寸法や、面積を計算するために使用する電卓。基本的には普段使用している使いやすいもので問題ないと思われますが、製図試験ではいくつか条件が設定されているので抵触しないか注意が必要です*2。なお、筆者は無印良品のシンプルなものを使用していました。
*2:建築技術教育普及センターのHPにある注意事項には、携行できるものとして「電卓(加減乗除、ルート、メモリー、%機能、関数機能を限度とし、プログラム機能を有せず、小型で音のしないもの)」と指定されている(URL:https://www.jaeic.or.jp/smph/shiken/1k/notes_on_the_day.html)
[参考製品]
・無印良品 電卓12桁 > 無印良品
※Amazonでは無印良品の製品は割高で販売されているのを見かけます。ご注意ください。
時計
試験会場に必ずしも時計があるとは限らないため、普段から使い慣れた時計を使用するのをおすすめします。ストップウォッチの持参も認められているようですが、元々持っていなかったこともあって、筆者は普段使用している腕時計を試験の際にも使用しました。
[参考製品]
・特になし。おすすめの腕時計がありましたら情報提供頂ければと思います。
三角スケール
縮尺に合わせた寸法で直ちに線を描くことができる三角スケール。筆者は上述の通り、大部分を三角定規で描いていましたが、縮尺を間違えると大きな手戻りが発生するため、定期的に確認するために使用していました。確認するのは通り芯など大きな部分になるため、本来は30cmの三角スケールが便利ですが、大きくなればなるほど取り回しはしにくくなるため、15cmの三角スケールといずれにするかは好みが分かれるかもしれません。
テンプレート
製図の際、主に柱型を図示するために使用することになるテンプレート。先述の通り、筆者は主に三角定規に付属しているテンプレートを使用していましたが、念のため一般的なテンプレートも合わせて携行していました。こちらを使用される方は三角定規のところで登場したフローティングディスクも貼っておくと便利かもしれません。
なお、試験会場に持ち込めるのは「円・だ円・正三角形・正方形及び文字用」のテンプレートに限られているため、注意が必要です*3。
*3:建築技術教育普及センターのHPにある注意事項より(URL:https://www.jaeic.or.jp/smph/shiken/1k/notes_on_the_day.html)
[参考製品]*Amazon商品ページにジャンプします
・ステッドラー テンプレート > 商品リンク
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一級建築士の設計製図試験は基本的に時間との勝負になりますが、どのような道具を使用するかは、製図の速度に少なからず影響を及ぼします。自分にとって使いやすい、手に馴染む製図道具を見つけるにあたって、この記事の体験談が参考になれば幸いです。
なお、製図試験の要項は毎年変更が加えられており、2025年の設計製図試験ではペンケースの持ち込みが不可となったよう。製図道具を選ぶ際には、その年の要項を十分に確認することをおすすめします。
[参考]
・公益財団法人建築技術教育普及センター 試験当日の注意事項(URL:https://www.jaeic.or.jp/smph/shiken/1k/notes_on_the_day.html)