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千葉の建築|行ってよかった建築 2025年版

東京から直通する鉄道路線が多く、埼玉県や神奈川県と並んで行き来しやすい千葉県。県庁所在地である千葉市近郊では、槇文彦さんや大高正人さんなど大建築家による作品を見ることができる一方、県内の他の地域には現代を代表する建築が数多く見られます。

県内各地に点在しているため1日で巡ることは難しいものの、東京からであれば日帰りでも訪れられる場所が大半。これまで訪れたものから、行ってよかった建築をピックアップしてみました。

ホキ美術館|[設計]日建設計

ホキ美術館外観。ダイナミックなキャンティレバーが目を惹く

まるで宙に浮いているかのような、筒状の展示室が目を惹くホキ美術館。日本最大の設計事務所である日建設計のなかでも、日本建築学会賞作品賞を初めとして数多くの賞を受賞している山梨知彦さんのグループによる設計です。

ホキ美術館外観。筒を積み上げたような構成

最大30mにもなるキャンティレバー(片持ち)が技術的に見応えがあるのはもちろん、そのプロポーションから生まれる緊張感もこの美術館の魅力のひとつ。設計する際にはBIMを活用されたようで、設計手法という点でも独自性があります。写実絵画に特化した美術館という専門性も日本国内では他にあまり見たことがなく、様々な観点で印象に残る建築体験でした。

*詳細は以下でも書きました▼

ホキ美術館|浮遊するスチールチューブの美術館 ふわりと宙に浮かんだようなチューブが印象的な、ホキ美術館。写実絵画に特化した美術館という、日本国内では他にあまり見たことがない専門性を...

ホキ美術館
[用途]美術館
[竣工]2010年
[設計]日建設計
[施工]大林組(建築)
[所在地]千葉県千葉市緑区あすみが丘東3-15
[HP]https://www.hoki-museum.jp/

千葉県立美術館|[設計]大高建築設計事務所

千葉県立美術館外観。建屋が集落のように集まって美術館を構成している

赤いタイル貼の建屋が集落のように並んだ姿が印象的な千葉県立美術館。設計は他にも多くの公共美術館・博物館を残している大高正人さんが手がけていますが、2025年、大高さんの作品としては初の国登録有形文化財(建造物)に登録されました。

千葉県立美術館の展示室ロビー内観。内部空間でも勾配屋根が活かされている

大高さんといえばメタボリズム・グループの建築家として知られていますが、その一端も垣間見える建築。エリアごとの機能に合わせたスケール感の操作も巧みで、50年ほど前に建てられた建築ながらも居心地の良い美術館でした。

*詳細は以下でも書きました▼

千葉県立美術館|メタボリズムの建築家による海辺の美術館 東京湾のすぐそば、千葉ポートパークに面して建つ千葉県立美術館。1960年代を中心に日本でメタボリズム・グループと呼ばれる建築運動があり...

千葉県立美術館
[用途]美術館
[竣工]1974年(展示棟)、1976年(管理棟)
[設計]大高建築設計事務所(建築)、木村俊彦構造設計事務所
[施工]竹中工務店(建築)
[所在地]千葉県千葉市中央港1-1
[HP]https://www.chiba-muse.or.jp/ART/

千葉市美術館・中央区役所|[設計]大谷幸夫・大谷研究室・千葉市建設局建築部営繕課

千葉市美術館のさや堂ホール内観。昭和2年に建てられた旧川崎銀行千葉支店が展示室に

「鞘堂方式」という方法によって昭和初期の建物を包み込むようにして建てられた千葉市美術館・中央区役所。大谷幸夫さんを中心とするグループの設計による外観が特徴的で、本町通りに建つ姿が印象に残りました。

千葉市美術館の外観(部分)。外観にも旧川崎銀行千葉支店が顔を出している

増築部分に内包されているのは、矢部又吉の設計により昭和2年に建てられた旧川崎銀行千葉支店。それがそのまま展示室として使われていることもあって、他の美術館にはない展示空間を体験できました。また、区役所と美術館の複合施設という点も、この建築の独自性のように感じました。

*詳細は以下でも書きました▼

千葉市美術館|旧銀行建築を包み保存する美術館 中高層の建物が建ち並ぶ本町通りのなかで、ひときわ異彩を放っている千葉市美術館。千葉県千葉市の中央区役所との複合施設であることも関係して...

千葉市美術館・中央区役所
[竣工]1994年
[用途]美術館、事務所
[設計]大谷幸夫・大谷研究室・千葉市建設局建築部営繕課
[施工]清水・西松・ナカノ・三菱建設共同企業体(建築)
[所在地]千葉県千葉市中央区中央3-10-8
[HP]https://www.ccma-net.jp/

DIC川村記念美術館(閉館)|[設計]海老原建築設計事務所

DIC川村記念美術館外観。ふたつの塔が並んだかわいらしい印象の建物

木々や湖に囲まれた山奥に建つDIC川村記念美術館。モダニズムの建築家として知られた海老原一郎さんの設計ながらも、童話に登場してもおかしくないようなかわいらしい外観の美術館です。

DIC川村記念美術館の本館とは別に建てられたギャラリー内観

残念ながら千葉県佐倉市に建つこの美術館は2025年3月31日をもって閉館してしまいましたが、今後は場所を移しての再開が検討されているよう。マーク・ロスコを初めとして歴史に残る芸術家の作品を多く収蔵している美術館でもあるので、今後の活動も楽しみです。

*詳細は以下でも書きました▼

DIC川村記念美術館|森に佇む2つの塔の美術館 千葉県佐倉市の山間部、DIC総合研究所のすぐそばに建つDIC川村記念美術館。その名の通り、印刷インキや顔料のメーカーとして知られるDI...

DIC川村記念美術館(閉館)
[竣工]1990年
[用途]美術館
[設計]海老原建築設計事務所(建築)
[施工]竹中工務店(建築)
[所在地]千葉県佐倉市坂戸631
[HP]https://kawamura-museum.dic.co.jp

千葉県立中央図書館|[設計]大高建築設計事務所

千葉県立中央図書館外観。起伏のある土地に建つ

千葉県立美術館と同じく、大高正人さん率いる大高建築設計事務所の設計した千葉県立中央図書館図書館。築50年を超える年季の入った建物ながらも、プレキャスト・コンクリートが多用された空間は、今なお緊張感があります。

千葉県立中央図書館内観。プレキャストコンクリートの天井は迫力がある

2003年にはDOCOMOMO Japanによる「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」にも選定され、学術的にも評価されている建築。訪れたときは大部分が改修中で立ち入り禁止になっていましたが、それでも多くの利用者が見られたのが印象に残りました。

千葉県立中央図書館
[竣工]1968年
[用途]図書館
[設計]大高建築設計事務所
[施工]戸田建設株式会社
[所在地]千葉県千葉市市場町26
[HP]https://www.library.pref.chiba.lg.jp/

流山市立おおたかの森小中学校|[設計]CAt

おおたかの森小中学校外観。ニュータウンらしいシンボリックな外観

CAt(シーラカンスアンドアソシエイツTokyo)の代表作のひとつ、流山市立おおたかの森小中学校。流山おおたかの森といえば、流山市のなかでも近年開発がなされたニュータウンで、年々人口が増加し続けている地域です。

打瀬小学校を初めとして、千葉県内で歴史に残る学校を多く設計してきたシーラカンス。彼らが同じ千葉県内で、今後の学校建築を牽引するような作品を残したことには、感慨深いものがあります。

おおたかの森センターのエントランスロビー内観

筆者は竣工時の見学会に参加するかたちで訪問しましたが、小中学校という用途のために通常は立入困難。ただ、併設されているおおたかの森センターやこども図書館では定期的にイベントが開催され、見学可能なこともあるようです。学校建築としての革新性を直接体験する機会は限られますが、コンクリート打放しのL字壁が織りなす複雑な空間体験は、それだけでも十分魅力的であるように思います。

流山市立おおたかの森小中学校・おおたかの森センター・こども図書館
[竣工]2015年
[用途]小学校、中学校、図書館、地域交流センター
[設計]CAt(建築)、オーク構造設計(構造)
[施工]大林組(建築・造園・土木)
[所在地]千葉県流山市市野谷621-1
[HP]https://www.otakanomori.city/(おおたかの森センター)

東京ディズニーランド|[設計]ウォルト・ディズニー・ プロダクションズ+梓設計

日本を代表するテーマパークのひとつ、東京ディズニーランド。意外と知られていませんが、当初の施設は基本計画をウォルト・ディズニー・プロダクションズが、設計を梓設計が手がけていて、代表的な建築雑誌のひとつである新建築にもしっかりと掲載されています(1983年6月号)。

過去には建築的な評価はなされてこなかった印象がありますが、近年、批評的な視座から再評価の試みが散見されるようになってきた建築。テーマパークとしての魅力に溢れていることは言うまでもありませんが、「夢と魔法の王国」を実現するために様々な技術が駆使されており、建築的にも見所が多くあります。

東京ディズニーランド
[竣工]1982年
[用途]レジャーランド
[設計]ウォルト・ディズニー・ プロダクションズ+梓設計(当初)
[施工]鹿島建設、清水建設、大成建設、三井建設
[住所]千葉県浦安市舞浜1-1
[HP]https://www.tokyodisneyresort.jp/tdl/

[参考]行ってみたい千葉の建築

都内から近いこともあって頻繁に行き来している千葉県ですが、まだ訪れることができていない建築も多数。学校という用途の都合上、通常は立入が困難なものもありますが、近々訪問したい興味を惹かれる建築をピックアップしてみました。

千葉市立打瀬小学校|[設計]シーラカンス

千葉市立打瀬小学校の鳥瞰写真(『小嶋一浩の手がかり』(小嶋一浩他著,エーディーエー・エディタ・トーキョー発行,2019)より)

学校建築の設計を手がける設計事務所として、現在では代表的な存在であるシーラカンスアンドアソシエイツ。千葉市立打瀬小学校は、日本建築学会賞作品賞も受賞した出世作ともいえる作品です。

低学年・中学年・高学年と学齢ごとに異なる空間を計画した学校のありかたは、現在においてもなお魅力的。小学校という用途のため気軽に訪れることはできませんが、機会があればぜひ見学したい建築のひとつです。

千葉市立打瀬小学校
[竣工]1995年
[用途]小学校
[設計]シーラカンス(当時、現在はCAt、CAnに改組)(建築)
[施工]銭高組・松栄建設共同企業体
[所在地]千葉県千葉市美浜区打瀬1-3-1
[HP]https://www.city.chiba.jp/school/es/122/index.html

千葉市立美浜打瀬小学校|[設計]CAt

千葉市立美浜打瀬小学校の平面ダイアグラム(『小嶋一浩の手がかり』(小嶋一浩他著,エーディーエー・エディタ・トーキョー発行,2019)より)

先の打瀬小学校と同じ千葉市立の学校でありながら、新たなチャレンジが試みられている千葉市立美浜打瀬小学校。こちらはシーラカンスアンドアソシエイツから改組された、CAt(シーラカンスアンドアソシエイツTokyo)名義の最初期の作品にあたります。

学齢毎の教室の差異は打瀬小学校ほど付けられてはいないものの、オープンスクール形式がより追求されたように見える平面計画。音響シミュレーションを駆使してこの計画に適した音環境の追求もなされているようなので、実際に空間を体験してみたい建築です。

千葉市立美浜打瀬小学校
[竣工]2006年
[用途]小学校
[設計]CAt(建築)
[施工]新日本・池田工建建設共同企業体(建築)
[所在地]千葉市美浜区打瀬2-18-1
[HP]https://www.city.chiba.jp/school/es/122/index.html

さくら広場|[設計]安藤忠雄建築研究所

日本を代表する建築家の一人、安藤忠雄さんの設計したさくら広場。その名の通り、一面に桜が植えられた広場で、その数は505本にもなるようです。

パナソニック・グループにより現在では全国4箇所に展開しているようですが、大阪府門真市と千葉県習志野市にあるこのさくら広場は最初にできた例のよう。HPに掲載されている図をみると安藤さんらしい幾何学が展開されているようなので、来春にでも訪れたいと思います。

さくら広場
[竣工]2006年
[用途]公園
[設計]安藤忠雄建築研究所
[施工]鹿島建設(建築)
[所在地]千葉県習志野市芝園1-5
[URL]http://holdings.panasonic/jp/corporate/about/experience-exhibition/sakura/makuhari.html

市原湖畔美術館|[設計]有設計室

市原湖畔美術館外観

1995年に建てられた市原市水と彫刻の丘がリノベーションにより生まれ変わった市原湖畔美術館。設計を手がけたのは、山本理顕の事務所出身のお二人による有設計室(現在はカワグチテイ建築計画に改称)です。

鉄筋コンクリート造で建てられた元建物の仕上げや塗装をすべて撤去し、そこにスチールの折板を挿入することで空間を再構成した作品。躯体のみを残す手法は木造などではたまに見られるものの、国内の鉄筋コンクリート造でここまで大胆に実現した例は他にほとんどないように思います。

過去に一度訪れたものの、残念ながら閉館中で入ることができなかった建築。空間やディテールなど、様々な点から実際に訪れて確かめたくなる見どころの多い作品です。

市原湖畔美術館
[竣工]2013年
[用途]美術館
[設計]有設計室(川口有子+鄭仁愉)(当時、現在はカワグチテイ建築計画に改称)(建築)
[施工]山内工業(建築)
[所在地]千葉県市原市不入75-1
[HP]https://lsm-ichihara.jp/