千葉|建築

DIC川村記念美術館|森に佇む2つの塔の美術館

千葉県佐倉市の山間部、DIC総合研究所のすぐそばに建つDIC川村記念美術館。その名の通り、印刷インキや顔料のメーカーとして知られるDICが運営する、企業主導の美術館です。

車でないとアクセスしにくい立地ということもあり、これまで訪れる機会がありませんでしたが、東京駅から高速バスが出ていると知って足を運んできました。

DIC川村記念美術館の館名サイン。現在使われているサインはグラフィックデザイナーの色部義昭さんにより2008年にリニューアルされたものだそう*1

*1:DIC川村記念美術館のHPには建築やサインについても詳しく掲載されており、本情報も同HPによる(URL:https://kawamura-museum.dic.co.jp/architecture/sign/

右手奥に見えるのがDIC川村記念美術館。湖に面して建っており、それを挟んだ向かいにはDIC総合研究所が建っている

美術館の周辺には美術作品も点在。左の写真はフランク・ステラによる《リュネヴィル》、右の写真は清水九兵衛による《朱甲面》

DIC川村記念美術館外観。シンボリックにそびえ立つ2つの円塔が目を惹く

美術館のサイン。広々とした敷地に2階建の建物が建つ。作品は常設が基本だがマーク・ロスコの作品を集めたロスコ・ルームやフランク・ステラの作品を始めとするアメリカ美術を集めた展示室など、室ごとにテーマが設定されている。館内は写真撮影禁止だが美術館のHPにも展示室の様子が多く掲載されている(URL:https://kawamura-museum.dic.co.jp/architecture/exhibition-room/

美術館周辺には多目的グラウンドや散策路なども整備されている。自然に囲まれているのは山奥にある美術館ならでは

訪れたときには広場のすぐそばにキッチンカーが出店していた。近くには屋外で食事をとることができる休憩スペースも

美術館とは別の建物として設けられているギャラリー。美術館で開催された歴代の展覧会のポスターが展示されていた

ギャラリー内には過去の展覧会のカタログも展示。美術館と同じ設計者かは不明だがどことなく近しい印象を受ける外観

美術館の設計を手がけた海老原一郎さんは、DIC(当時の社名は大日本インキ化学工業)の二代目社長であり、この美術館の設立者でもある川村勝巳さんと親しい友人関係にあったそう。美術館の竣工は1990年ですが、海老原さんはこの直後に逝去されており、本作はいわゆる遺作にあたるようです。

これまで海老原さんの作品を訪ねたことはありませんでしたが、彼は前川國男さんと同じ1905年生まれで、モダニズムの建築家として知られていたそう。ただ、このDIC川村記念美術館は、前川さんの建築とは全く異なる佇まいを見せていて、同時代にこうした建築家もいたのだと、当時の建築の広がりを改めて感じられる体験でした。

千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館は、2025年3月31日をもって運営終了となりました。当初は2025年1月下旬からの休館を予定していたようですが、休館発表後に多くの来館があったようで2ヶ月ほど延期されたようで、多くの人に愛されていたことが伺えます。

BCS賞も受賞した海老原さんの代表作であり、自然に囲まれた気持ちの良い美術館ということもあって大変残念ではありますが、今後の活用方法に期待させて頂きたいと思います。35年間、お疲れ様でした。

なお、今後は一部縮小されるものの、庭園の開放は継続されるようです。美術館としての活動も国際文化会館との協業が発表されており、こちらも期待させて頂きたいと思います。

DIC川村記念美術館(閉館)
[所在地]千葉県佐倉市坂戸631
[用途]美術館
[設計]海老原建築設計事務所(建築)
[施工]竹中工務店(建築)
[竣工]1990年
[URL]https://kawamura-museum.dic.co.jp

[参考書籍等]
・『新建築1990年7月号』新建築社、1990