(『2022年に訪ねた展覧会(上半期編・2/2)』から続く)
22 森に棲む月に棲む建築構造デザイン
2010年から2022年にかけて東京大学大学院の建築学専攻に開設されていた、建築系の講座のプロジェクトが紹介された展覧会。講座名を「建築構成材デザイン工学(AGC旭硝子)寄附講座」といい、その名の通り一般企業の寄付を受けて開かれていたようですが、講師陣には東京大学の佐藤淳先生を初めとする錚々たる面々が並んでいました。展示内容は展覧会名にもある通り、建築構造に関する内容が主でしたが、どのプロジェクトも初めてみる手法ばかり。ガラスを構造材に用いて成り立たせているプロジェクトや宇宙シェルターを構想したプロジェクトが印象に残りました。
森に棲む月に棲む建築構造デザイン
[会期]2022年7月16日〜2022年9月11日
[会場]東京大学駒場Ⅰキャンパス 駒場博物館
23 ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで
建築家でもありエンジニアでもあったデザイナー、ジャン・プルーヴェの展覧会。展覧会名にもある通り、椅子や家具といったプロダクトから建築まで、多様なスケールの作品が展示されていました。プルーヴェは工業デザインの分野での業績も多く、展示作品にはプレファブ住宅のモックアップなども。彼が生きた20世紀でも多くのデザイナーや建築家が影響を受けたと聞きますが、技術に対する関心が高まっている昨今においても、改めて見倣うべき部分が多々発見できる展覧会でした。
ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで
[会期]2022年7月16日〜2022年10月16日
[会場]東京都現代美術館
24 フィン・ユールとデンマークの椅子
近代に始まり、現代においてもなお人気の高い北欧デザインの、代表的デザイナーであるフィン・ユールを中心とした展覧会。彼の作品や変遷だけでなく、ハンス・J・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンといった同時代のデンマークの家具デザイナーの作品、当時の北欧デザインが生まれた背景など、近代におけるデンマークの家具の全体像が見渡せる展示がなされていました。展覧会の一角には、様々な北欧家具デザイナーの椅子を試し座りできるエリアも。
フィン・ユールとデンマークの椅子
[会期]2022年7月23日〜2022年10月09日
[会場]東京都美術館
25 キース・ヴァン・ドンゲン展ーフォーヴィスムからレザネフォル
オランダに生まれ、主に20世紀のパリで活動したフォーヴィスム(野獣派)の画家、キース・ヴァン・ドンゲンの展覧会。フォーヴィスムの画家というとアンリ・マティスやジョルジュ・ルオーらが有名ですが、ヴァン・ドンゲンの作品は人物像、特に当時最新のファッションに身を包んだ女性を描いた絵画が多く展示されていました。
キース・ヴァン・ドンゲン展ーフォーヴィスムからレザネフォル
[会期]2022年7月9日〜2022年9月25日
[会場]パナソニック汐留美術館
26 ライアン・ガンダー われらの時代のサイン
様々な媒体を用いてユーモアのある作品を残しているイギリスの現代美術家、ライアン・ガンダー氏の展覧会。このときも立体作品や絵画、ロボティクスまで、多様な技術や素材による作品が展示されていました。まるでマネキンが自ら動いたかのような形跡を残した作品や、本物にしかみえないネズミのロボティクスなど、だまし絵をみたときに似た不思議なおもしろさを感じることができました。
ライアン・ガンダー われらの時代のサイン
[会期]2022年7月16日〜2022年9月19日
[会場]東京オペラシティアートギャラリー
27 ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展
ライアン・ガンダー氏の個展と同時開催された展覧会で、東京オペラシティアートギャラリーが収蔵する作品をもとにライアン・アンダー氏がキュレーション。選ばれた作品が単に並べられるだけではなく、一方の壁に平面作品が、対面する壁にそれらと同じ大きさの縁取りとキャプションが展示されるという、これまで見たことのない展示方法がとられていました。展示作品だけでなく、2つの壁を行き来しながら作品をみてまわる人の姿そのものも印象に残りました。
ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展
[会期]2022年7月16日〜2022年9月19日
[会場]東京オペラシティアートギャラリー
28 百貨店展ーー夢と憧れの建築史
建築家であり編集者でもある浅子佳英さんと建築研究者の菊地尊也さんの監修により、百貨店の歴史的変遷が紹介された展覧会。百貨店が登場した20世紀初頭から現在に至るまで、主に建築空間の変遷に焦点が当てられ、模型や年表など迫力ある展示がなされていました。年表と聞くとどうしても教科書的な、出来事が羅列されたものを想像しますが、この展覧会では百貨店の変遷をたどる上でポイントとなる点がコメントで示され、専門外の人にもわかりやすい表現がとられているのが印象に残りました。内容そのものも各社の百貨店が横断的かつ詳細に紹介され、その変遷が頭の中に立体的に浮かび上がってくるようでした。
百貨店展 ーー夢と憧れの建築史
[会期]2022年9月7日〜2023年2月12日
[会場]高島屋史料館TOKYO
29 GOOD DESIGN EXHIBITION 2022
様々な分野の作品を対象とするのが特徴的な、グッドデザイン賞の2022年度受賞展。「グッドデザイン・ベスト100」以上の賞に選ばれた作品を中心に、プロダクトの類は受賞作品そのものが、建築等実物を運び入れることが難しい作品はその内容を紹介したパネルが展示されていました。会場の一角には、1,500点を超えるグッドデザイン受賞作品すべてを紹介する壁面展示も。様々な分野を一覧に並べると雑然としていまいそうですが、壁・床・天井に赤いラインをひくことで空間を引き締め、整然とみせているのが印象的でした。
GOOD DESIGN EXHIBITION 2022
[会期]2022年10月7日〜2022年11月6日
[会場]東京ミッドタウン・デザインハブ
30 出来事の地図 tomito architecture
若手建築家集団であるtomito architectureの個展で、家具等の詳細までつくりこまれた模型やカラフルに彩られたドローイングなどを用い、進行中のプロジェクトが紹介されていました。建築作品そのものというよりはどちらかというと設計のプロセスに焦点が当てられ、クライアントや地域の人達との対話や、それらを受けた計画の変遷が展示の大半を占めているのが印象的でした。
出来事の地図 tomitoarchitecture
[会期]2022年9月20日〜2022年10月22日
[会場]プリズミックギャラリー
31 李禹煥
韓国に生まれ、日本を拠点に活動している現代美術家、李禹煥(リ・ウファン)氏の展覧会。ここまでの大規模回顧展は東京では初だそうで、1960年代の初期作から新作まで、また平面作品から立体作品まで、彼の変遷をたどることのできる充実した作品群が展示されていました。「もの派」を代表するといわれる李禹煥氏の作品は、それが置かれる空間との関係性そのものを作品化してしまう印象がありましたが、ここでもその巧みな空間の取扱いを再確認させられ、建築設計者の間でもファンの多い理由がよくわかる展覧会でした。
李禹煥
[会期]2022年8月10日〜2022年11月7日
[会場]国立新美術館
(『2022年に訪ねた展覧会(下半期編・2/2)』に続く)