数々の名建築を有する香川県において、その代表と言っても過言ではない丸亀市猪熊弦一郎現代美術館。丸亀市で生まれ育った画家、猪熊弦一郎氏の作品を所蔵し、現代美術の企画展も多く開催している美術館です。

設計を手がけたのは国内外に数多くの美術館を残している、谷口吉生さん。ニューヨーク近代美術館(MoMA)の増築棟の設計者を決めるコンペティションの際には、審査員はこの美術館を訪れたことがきっかけで谷口さんを指名に加えたというエピソードも残っています*1

丸亀駅のすぐ目の前に建っていて、交通の便にも優れる建築。香川へ出かけた際のメインスポットとして、足を運んできました。

*1:『十二組十三人の建築家 古谷誠章 対談集』(LIXIL出版発行,2014)より。

《丸亀市猪熊源一郎現代美術館》を丸亀駅側から見る。駅前広場のランドスケープの設計は谷口さんとも度々協働しているピーター・ウォーカーが手掛けているよう*2。道路を挟んでいるものの美術館との一体感がある(*2:『新建築1992年7月号』(新建築社発行,1992)より。

美術館を正面から見る。外観を印象づける巨大な門型フレームは幅約26メートル、高さ約16メートルにもなるそう。門型の内側に配された壁画は猪熊源一郎氏が下絵を手掛けた、いわば谷口さんとの共作ともいえる作品

美術館前の広場に置かれたアートワークも猪熊氏の作品。道路から一段上がった位置に広場を置くことで美術館がよりシンボリックに感じられる

美術館の愛称であるMIMOCAを示した館名サイン。大きく表示する代わりに繊細な線でデザインされていて、主張しすぎない。サインデザインはGKグラフィックスによる

左:巨大な壁画の脇に小さく建てられた黒い壁の裏に美術館のエントランスが設けられている。正面から回り込んで入る動線が谷口さんらしい/右:エントランス脇の大階段は、広々とした踊り場を挟んで3階まで続く

コンクリート打放しの大壁面に落ちるトップライトからの自然光と影が空間をドラマチックに見せている。《東京国立博物館 法隆寺宝物館》を始めとして、谷口さんの建築ではしばしば見られる空間演出の手法
大階段の頂上に設けられた屋上広場。ここにも猪熊氏の立体作品が置かれている。谷口さんの建築ではどこも何らかのかたちで水盤が登場するが、この美術館ではこの屋上広場に壁面を流れ落ちる滝が設けられていた(写真左)。こういった水盤は竣工からしばらく経つと使われなくなる例も多いが、竣工から30年以上が経つ現在でも使われている姿から、この建築が愛されていることが伝わってくる

美術館のエントランスホール。受付カウンターの向かい側(写真右側)にはミュージアムショップが設けられている。天井高が低く抑えられていることが後の空間に活きる

エントランスホールのすぐ隣に設けられた3層吹抜の展示スペース。天井高が低く抑えられた空間から移行するシークエンスによって、空間がよりダイナミックに感じられる。脇の階段を登った先から展示室が始まる

2階展示室A。展示作品の数に対して面積が大きく、空間が贅沢に使われている

エントランスから展示室までの間は一切の扉がなく、空間としてひとつながりに計画されている

2階展示室B。こちらの展示室は床面積だけでなく天井高も大きい。空間の大きさが様々に変化することで空間を巡っていく楽しさがある

2階展示室B。巨大なトップライトも設けられており、この美術館の特徴を表すすべての要素が詰め込まれたような展示空間

3階から展示室や大階段を見下ろす。上階と下階をつなぐ視点場があちこちに設けられている

3階展示室C。天井はアルミルーバーで内側の空調ダクトを現しにしている。こちらの展示室は主に企画展に活用されているようで、訪れた時は中園孔二氏の展覧会が開催されていた

左:カフェレストラン。3階屋上広場のすぐ隣に設けられている/右:美術図書室・造形スタジオ手前のホール。応接室のようなソファが置かれていて閑散としていたが、ワークショップのときにはこのスペースが賑わうのだろうか

左:美術館に置かれていた美術館の模型。こうして俯瞰して眺めてみると美術館前の広場の余白がこの美術館にとって重要であることがよくわかる/右:造形スタジオ。訪れたときにはワークショップの痕跡が残されていた

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南側からの外観。ふたつの円筒形は、美術館のEVシャフトになっている。細長い筒のような建築に対して、縦に長いプロポーションがよいアクセントになっている

この美術館には丸亀市立図書館が併設されており、1階の床面積の約2/3が図書館となっている。互いを館内で行き来する利用者動線は特に設けられていないが、バックヤードや管理諸室では互いに連絡できる動線が設けられているよう

左:丸亀市立図書館のメインエントランス/右:美術館および図書館の職員用出入口。三方を道路に囲まれているが、どの方角から見ても美しい外観が形づくられている

谷口さんが設計を手がけた美術館はこれまでいくつも体験していますが、その中でもこの猪熊弦一郎現代美術館は、ところどころで感じられるダイナミックさが印象的。猪熊さんの下図を基にした正面の壁画に応じるように、アプローチの大階段やエントランスホール脇の吹抜け、天井高の大きな展示室まで、とにかく巨大な空間を軸にした空間体験が続きます。

この美術館の竣工は1991年で、谷口さんはこのとき50代半ば。これより前に手掛けた《土門拳記念館》(1983年竣工)や《長野県信濃美術館・東山魁夷館》(1990年竣工)、後に手掛ける《豊田市美術館》(1995年竣工)や《東京国立博物館 法隆寺宝物館》(1999年竣工)と共通する要素も見られ、谷口さんの嗜好を色々と考えさせられる空間体験でした。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館・丸亀市立図書館
[竣工]1991年
[用途]美術館、図書館
[設計]谷口建築設計研究所
[所在地]香川県丸亀市浜町80-1
[HP]https://www.mimoca.jp