2024年4月、栃木県の山奥に開業した「スノーピーク鹿沼キャンプフィールド&スパ」。その名の通り、キャンプ用品で知られたスノーピークによる関東では初となる直営キャンプ場です。
栃木県のやや南部に位置していることもあって、都内からでも車で2時間ほどで行き来できる距離。建築家の隈研吾さんが手がけた「住箱」も置いてあると聞いて、訪ねてきました。
山奥ながらもアクセスルートが整備されたキャンプ場
スノーピーク鹿沼キャンプフィールド&スパ(以下、スノーピーク鹿沼)が位置するのは、栃木県鹿沼市の山奥にある上南摩地区。先の通り都内から車で向かうと2時間ほどの距離ですが、電車やバスを乗り継いでも浅草駅からであれば2時間程度で行き来でき、公共交通機関でもさほど苦労しないアクセスルートが整備されています*1。
*1:浅草駅から東武線の特急に乗車すると、新鹿沼駅まで約1時間30分程度で到着する。新鹿沼駅からは2時間に1本程度の間隔でバス(リーバス[南摩線])が出ており、スノーピーク鹿沼までは30〜40分程度で到着する。新鹿沼駅からはタクシーで向かうことも可能(参考:鹿沼市HPより(URL:https://www.city.kanuma.tochigi.jp/0570/info-0000001380-1.html)
バス会社のWEBサイトをみてみると、この施設のためにローカルバスのバス停が新たに設けられたよう。この土地自体は鹿沼市が指定管理者制度*2で貸し出しているようなので、公共と民間が協力し合った町おこしの一貫のような位置付けなのかもしれません。
*2:地方自治体が設置する施設の管理・運営を民間企業社NPO等の団体に行わせる制度。令和3年1月に公募型プロポーザルが行われ、株式会社スノーピークが選定された。(参考:https://www.city.kanuma.tochigi.jp/0490/info-0000007106-1.html)
施設の周囲はとにかく山々の緑、緑、緑。キャンプ場というと山梨や長野の名前をよく聞く印象がありますが、都内から近く、かつこれだけの緑に囲まれた山奥にアクセスルートが整備されれば、他県と同じくらいの人気が出てもおかしくないように感じました。
鹿沼市らしさが体験できるスノーピーク
スノーピーク鹿沼を訪ねてまず目に入るのは、緑の山々を背景にひっそり佇む小さな建物群。建物自体が平屋であることに加え、メインアプローチ側に向かって高さが抑えられた勾配屋根であることで、山々の景観を遮ることなく一体感のある風景を形成していました。
建物内の店舗としてはキャンプの受付に加えてカフェやスパ、蕎麦屋などが入っていて、単なるキャンプ場にとどまらない多機能さ。駐車場から近い位置にこれらが置かれていることからも、キャンプ以外にも色々な目的で訪れたくなるような施設をつくろうとしたことが窺えます。
実際、訪ねたときにもキャンプ以外の目的で訪れたように思われる利用者が多数。鹿沼市発祥のカフェ「日光珈琲」や地元産の蕎麦粉を使った蕎麦屋「上南摩そば 竜がい」の他、スノーピーク直営によるサウナ付スパでは上南摩源泉の温泉を味わうことができる等、キャンプ以外の部分でもこの土地ならではのものが体験できる施設になっていたのが印象的でした。
スノーピークのキャンプ用品を中心に販売している店舗でも、鹿沼市内でつくられている菓子類をはじめとする様々なお土産を販売。全国的に展開しているスノーピークの商品と、この土地ならではの商品が同じ空間で並んでいる光景はどこか新鮮に映りました。
鹿沼市で採れる深岩石の活用
この土地ならではといえば、施設の各所では鹿沼市で採れる石材である深岩石を建材として活用。駐車場からのアプローチに建つ館名サインや、階段手摺にも深岩石が使われていて、施設の顔となる部分もこの土地ならではの建材で彩られていました。
栃木県内で採れる石材といえば帝国ホテル等にも使われた大谷石が有名ですが、この深岩石も一見は大谷石によく似た石材。大谷石の産地として知られる宇都宮市は鹿沼市のすぐ隣に位置しているので、地層としても近しい性質を持っているのかもしれません。
深岩石も大谷石と同じく凝灰岩の一種で、大谷石と比べるとやや固く、吸水率が低い特徴を持っているよう*3。この日は入ることができなかったものの、スパ内のベンチにもこの深岩石が使われているようです。
*3:参考:大谷石産業株式会社HP(参考:https://ooyaishisangyo.com/material/fukaiwa/)
中央広場に開いた木造の店舗群
建物の配置としては、ぽっかり空いた空き地のような中央広場をコの字型に置かれた木造建屋で取り囲む構成。中央広場のまわりには訪ねたときにはロープが張られていましたが、ときにはイベントが行われたり、ときにはマルシェが開かれたりと、多目的に活用されているようです。
ひとつひとつの建屋は中央広場に面して全面的に窓が設けられていて、屋内外が連続的に感じられる開放的な設え。屋根が中央広場に向けて高くなっていることで、建物内から屋外の活動がより近くに感じられると共に、中央広場の囲まれ感が強調されより落ち着きある空間になっているように感じました。
建物内部は、勾配屋根の架構を天井等で隠さずにそのまま現した広々とした空間。全体としては木を使いながらも、部分的には鉄骨を用いた張弦梁が採用されていることで、ところどころに設けられたトップライトからの自然光がより効果的に働いているように感じました。
建物の設計は有名建築家ではないかとは思いますが、色々な建築からの影響が節々に見てとれると共に、細かいところまで気が配られた力の入った建築でした。
シャワーや洗濯機も完備、手厚いキャンプフィールド
駐車場からみてさらに奥、店舗や広場の南側には、いよいよ広々と広がるキャンプフィールド。広場に近い方から順に、フリーサイト、電源付区画サイト、林間サイトの大きく3種に分かれていて、やや西側の小高い丘に後述する「住箱」が、各サイトのちょうど中間地点あたりの2箇所にトイレや水道の設けられた2つのサニタリー棟が置かれていました。
WEBサイトから調べてみると、サイトの数は上から順に67・15・5の合計87サイト*4。想像よりも多く若干驚きましたが、1組5万円前後で道具一式をレンタルして手ぶらでキャンプを楽しめるプランも用意されているようなので、キャンプ初心者でも気軽に訪ねやすいと考えれば意外とすぐに埋まってしまう数字なのかもしれません。
*4:KANUMA Campfield & Spa HPより(URL:https://www.snowpeak.co.jp/locations/kanuma/)
実際、各サイトから概ね50m以内の位置に置かれたサニタリー棟には、トイレや水道だけでなくシャワーや洗濯機などの設備機器も充実。すぐ近くには利用者が自由に使えるコンセントも付いていて、昔ながらのキャンプ場とは全く違った施設に変化してきていることに気が付かされました。
隈研吾×スノーピークによるトレーラーハウス「住箱」
店舗近くの小高い丘の上、他のサイトを見下ろせる位置に並んでいる4台のトレーラーハウス「住箱」は、建築家の隈研吾さんとスノーピークの協働で生み出された製品。電源や冷暖房、トイレも付いていて、他のサイトと同様に1泊6万円前後で宿泊することができるようです。
住箱自体は他のスノーピークのキャンプ場にも置かれているようですが、ここでグレーに塗装されたヒノキ合板による外装は、黒や白など、その土地に応じて違う色で塗装されているよう*5。2021年に東京国立近代美術館で開催された隈研吾展でも1台展示されていましたが、そのときは合板の色そのままで仕上げられていました。
*5:スノーピークのHPで各地に設置された住箱をみることができる(URL:https://www.snowpeak.co.jp/sp/jyubako/)
ガラス窓の外側に設けられた戸がそのままテーブルになる設えは、窓を閉める=テーブルを収納することでトレーラーハウスの規定を守るために発想されたものなのだそう*6。建築家が電車の車両デザインした事例はたまに見かけますが、隈さんがトレーラーハウスのデザインを手がけたことはその延長線上にあるものとして捉えられるかもしれません。
*6:スノーピークのHPには隈さんのインタビューが掲載されている(URL:https://www.snowpeak.co.jp/sp/jyubako/story/)
ちなみに、トレーラーハウスは仮に配管で土地とつながれていたとしても、着脱可能な施工方法に従えば建築基準法上の建築物にはあたらず、車両扱いにできるそうです*7。
*7:スノーピークHPより。販売価格は700万円程度のよう(URL:https://www.snowpeak.co.jp/sp/jyubako/faq/)
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スノーピークによる直営のキャンプ場は、北は北海道、南は宮崎まで、全国各地につくられているよう。土地によって併設されている機能は様々にあるようですが、スパの名を冠した施設はこの鹿沼が初のようです。
キャンプはそもそも、その土地固有の自然を楽しむレジャー。そう考えると、スノーピーク鹿沼で行われているような地域の魅力を再発見する試みとは、元々相性がいいのかもしれません。
*snow peak KANUMA Campfield & Spa (スノーピーク鹿沼 キャンプフィールド&スパ)
[開業]2024年
[設計(住箱)]隈研吾建築都市設計事務所
[用途]キャンプ場、店舗、スパ(サウナ)
[住所]栃木県鹿沼市上南摩町字沢口1901
[HP]https://www.snowpeak.co.jp/locations/kanuma/