およそ70,000㎡という広大な屋外展示場に、数多くの彫刻作品が立ち並ぶ箱根・彫刻の森美術館。木々や芝生に囲まれた緑の風景に小さな建物が点在していて、これらひとつひとつもまた特色ある展示室になっています。
すぐ近くには箱根登山線・彫刻の森駅があり、公共交通機関でも行き来しやすい立地にある施設。ピカソを始めとする著名な作家の作品を収蔵していながら、ふらっと立ち寄れる気軽さもあり、ピクニック気分で訪れてきました。
彫刻の森美術館のエントランス外観。美術館はなだらかに下る傾斜地に位置しており、正面にみえるゲートの奥に設けられたエスカレーターで下った先の低地に展示室や屋外展示場が広がっている。高低差をうまく活用することで美術館の内外が分けられており、ゲートを潜った先ではじめて美術館内を目にすることができる
エントランスのエスカレーターを下った先のアプローチ。フジサンケイグループに運営によることがわかる。アプローチが長めにとられていることで期待感が高まる計画
彫刻の森美術館の案内図。左下がエントランス。広大な土地に多くの彫刻や展示室が点在している
彫刻の森美術館の本館ギャラリー。設計は彫刻家の井上武吉氏による。重厚感のある直方体が宙に浮いたようなモダニズムを思わせる。建物のプロポーションが綿密に検討されたことが一目でわかる緊張感のある建築
本館ギャラリー内観。ところどころから屋外展示場が覗き込む
本館ギャラリーの設計者である井上武吉氏の彫刻作品は、東京都庁舎をはじめとして各地の公共建築で目にすることができる。彫刻の森美術館の他にもいくつかの設計・監理を手がけているよう(URL:https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko/10560.html)
彫刻の森美術館の屋外展示場。木々や芝生に覆われた広大な土地にたくさんの作品が点在している
体験型のアート作品も多く設置されている。右の地中下にみえるのは地面の下に広がる迷路のような作品《星の庭》。彫刻の森美術館の外構計画も本館ギャラリーと同じく井上武吉氏が手掛けているが、この作品もそれと合わせてつくられたものだろうか
建築家の手塚貴晴さん率いる手塚建築研究所による《ネットの森》(竣工:2009年)。木の角材を積み上げた巨大な彫刻のような建築。竣工時はひとつひとつの部材が単なる角材形状だったが、現在では部材上部に小さな屋根が取り付けられていた
ネットの森内観。正面に見えるのは堀内紀子さんによる《おくりもの:未知のポケット2》。子どもがその中で遊ぶことのできる体感型アート作品
1984年に開館したピカソ館。その名の通り、内部にはパブロ・ピカソによる膨大な数の作品が収蔵・展示されている
ピカソ館内観。2019年にARIWRKSの設計によりリニューアルされたよう。展示室が隠されたアプローチから二層吹抜へと続くシークエンスが印象的(参考)ARIWRKS公式HP(https://www.ariwrks.com/picassopavilion)
ピカソ館内観。一面白の空間に色鮮やかなステンドグラスが映える
屋外展示場。左に見えるのはニキ・ド・サン・ファール氏による《ミス・ブラックパワー》、右に見えるのは猪熊弦一郎氏による《音の世界》。著名な美術家による作品がそこかしこに置かれている
カフェの2階に計画されたトラフ建築設計事務所による《丸太広場 キトキ》(完成:2020年)
《丸太広場 キトキ》には丸太をそのままカットしたような家具が置かれている。木材には箱根山で伐採された杉の丸太材が活用されているそう(参考)トラフ建築設計事務所公式HP(http://torafu.com/works/kitoki)
左:フランソワ=グザヴィエ・ラランヌ氏による《嘆きの天使》。美術館の出入口すぐ側に配置されており迫力がある/右:ガブリエル・ロアール氏による《幸せを呼ぶシンフォニー彫刻》。最上部からは箱根連山を眺めることができるそう
左:ジャコモ・マンズー氏の作品が展示されたマンズールーム/右:マンズールームに隣接したアートホールにも様々な作家の作品が展示されている
左:美術館を出る際に経由するマルチホールにも巨大な作品3点が常設展示されている/右:彫刻の森美術館のビュッフェレストラン。ショップやレストランは美術館へのゲート手前にも出入口が設けられており、単独での利用も可能
現在では複数の屋内展示室を有する彫刻の森美術館ですが、1969年に開館した当時は、本館ギャラリーと屋外展示場から始まったのだそう。これらの設計は建築家でも造園家でもなく彫刻家の井上武吉氏が手掛けていて、一般的な美術館とは異なる方向が目指されていたことが窺えます。*1
開館から50年以上経っていながら、手塚建築研究所の設計による《ネットの森》(2009年竣工)やトラフ建築設計事務所による《丸太広場キトキ》(2020年完成)など、近年でも建築家による作品が続々と増えている様子。一般的な美術館は土地が限られていることが多いので、建築家による常設の作品が増えていくのはこの美術館ならではともいえます。
著名な美術家による作品を多く所蔵・展示する美術館でありながら、テーマパークのような親しみやすさを備えていて、美術をより身近に感じてもらおうという意気込みが感じられる施設でした。
[参考書籍等]
・『新建築2009年10月号』新建築社、2009