東京|建築

個性豊かな展示室が積層した都心型美術館|ワタリウム美術館

外苑前駅すぐ近く、渋谷区神宮前の都内一等地に建つワタリウム美術館。この美術館では現代美術を中心とする展覧会が毎年3〜5開催されていて、建築が題材に取り上げられることも少なくありません。

学生時代から度々訪ねていたこの美術館も、2020年には開館30周年を迎えたそう。この美術館の展示空間を改めて体験したくなったこともあり、興味のあった展覧会「加藤泉一寄生するプラモデル」と合わせて見学に伺ってきました。

マリオ・ボッタ氏による左右対称のファサード

ワタリウム美術館の外観。中高層のビルに囲まれて建つ

シンメトリーの壁面に横ストライプの入った外観が特徴的なワタリウム美術館は、スイスの建築家、マリオ・ボッタ氏が設計した私の知る限りでは国内唯一の作品。地上5階建に地下1階という都心型の美術館ならではの階構成で計画されています。

ワタリウム美術館を正面からみる。屋外階段を配置することでシンメトリーに

この美術館が竣工したのは1990年。1995年には同じくボッタ氏の設計でサンフランシスコ近代美術館が竣工していますが、この時期ボッタ氏は、ワタリウム美術館を含めて同時に複数の美術館の設計を手掛けていたそう*1。色こそ異なるものの、ほぼシンメトリーの外形に横ストライプのファサードという点では、この二つの美術館の意匠にはどこか通ずるものがあるかもしれません。

左:屋外階段を外からみる/右:ワタリウム美術館近景

ワタリウム美術館が完成した直後に行われたボッタ氏へのインタビュー*1では、三角形の敷地の交差点に面する位置に屋外階段を配置することで、シンメトリーの立面をつくった点が計画の要点として語られていました。

日本の建築家では伊東豊雄さんや長谷川逸子さん等がボッタ氏の同世代にあたりますが、彼らの中にシンメトリーなファサードをつくろうとする建築家は多くなく、先の語りからはボッタ氏の建築家としてのこだわり、思想を感じました。

*1:動画プラットフォーム「シラス」において当時のボッタ氏へのインタビューが公開されている。「マリオ・ボッタ インタビュー「ワタリウム美術館建築プロジェクト1985-90」+対談 ナムジュン・パイク ワタリウム美術館 映像アーカイブより」(URL:https://shirasu.io/t/watarium/c/watarium/p/20230330113631

 

galerie watariとON SUNDAYS

ワタリウム美術館のエントランス。入ってすぐ脇にはON SUNDAYSの商品が並んでいる

エントランスから建物内に入ると、すぐ左手には展覧会の受付カウンター。展示室は2階以上に配置されていて、受付脇のエレベーターから上階へとすぐにアクセスできる動線計画がとられています。

代わりに、1階と地下1階はミュージアムショップ「ON SUNDAYS」がフロアの大部分を占拠。展覧会のチケットを買わずとも立ち寄ることができる計画となっています。

このON SUNDAYS、ワタリウム美術館が建てられる前はこの美術館の前身にあたる「galerie watari」のすぐ隣に開かれていたそう*2。galerie watariを初代館長である和多利志津子さんが、ON SUNDAYSをそのご子息にあたる和多利恵津子さんと浩一さんが運営していたこともあって、美術館建設の際に一体となったようです。

*2:bluestudioによる和多利浩一氏へのインタビュー「アート、建築、街、その先を!」より(URL:https://www.bluestudio.jp/sp/magazine/interview/000105.html

2フロアいっぱいに商品が並んでいる中に、ときには展覧会の作品が展示されていることも。ショップのすぐ隣ではミュージアムカフェも運営されていて、コンパクトな中に多くの機能が詰め込まれているこの高密度な機能構成は、改めて東京らしい空間であるように感じました。

 

光やプロポーションの多様性に富んだ展示室

2階展示室。白く塗られたブロック壁、コンクリート打放しのワッフル天井が印象的

エレベーターで2階へとあがると、扉が開いた先から展示室がスタート。白く塗装されたブロック積みの壁、コンクリート打放しのワッフル天井といった一般的な美術館ではあまり見かけない仕上げで構成されていて、ホワイトキューブのようでありながら同時に素材感もある独特の展示空間が広がっています。

2階展示室に設けられた大きな窓から屋外をみる。道路挟んで向かいにも作品が展示されていた

外壁面には大きな窓が設けられ、北側の自然光がやわらかく降り注ぐ明るい展示空間に。展覧会によっては道路を挟んだ向かいの空地にも作品が展示されることもあるようで、今回の展覧会でもその大きな窓から見下ろした先に立体作品が展示されている姿をみることができました。

左:2階展示室から3階展示室をみる/右:3階展示室から吹抜けをみる

2階展示室は3階展示室とひとつながりの空間となっていて、展示室奥には2層吹抜けの先に3階展示室の様子が窺える大きな窓も。吹抜けの上部にはハイサイドライトも設けられていて、人の視線や自然光を介して空間が立体的につながる空間構成がとられています。

2階展示室のハイサイドライト

ひとつの展示室の中でも光環境や空間のプロポーションの多様性に富んでいて、滞在していて居心地のよい展示空間。展覧会ごとに様々な方法で作品が展示されていて、美術家の個性を感じることができるのもこの美術館の魅力のひとつであるように感じます。

 

東京の風景をシークエンスに組み込む

左:2階展示室。奥にみえる出入口から屋外階段を通じて3階と行き来する動線計画/右:屋外階段のすぐ脇には休憩できるようベンチが置かれていた

2階と3階は人の視線や自然光を介して一体的に感じられる一方で、これらを行き来するにはエレベーター又は屋外階段を経由する必要あり。体感の上では近しく感じながらも、互いを行き来するには一度屋外に出なければならないという展示動線には、建築家の意図を想像せざるを得ませんでした。

3階展示室。左手の窓の外には2階から連続する吹抜け

ボッタ氏はこの建築を設計する際、東京という場所性をどのように反映するかを相当に考えたそう*2。展示動線の途中に屋外階段を挟むことで、そこから垣間見える東京の都市風景を展覧会を巡るシークエンスの中に組み込みたかったのかもしれません。

4階展示室。四周を壁に囲まれた落ち着きある展示空間

なお、4階へもエレベーターを通じてのみ行き来する動線計画。ハイサイドライトを介してつながってはいるものの、空間としては2階や3階とは明確に区切られていて、これらとはまた違った落ち着きある展示空間として設えられています。

展示室の床面積としては決して大きくはないものの、どの階もそれぞれ個性的な空間であることが、実際の面積以上に広々とした空間体験を生んでいるように感じました。

 

当初から私設の美術館として開館したワタリウム美術館ですが、開館から30年以上が経った現在でも全く古びることなく、むしろ美術館としての個性を有している点は近年の美術館に通ずるものを感じます。現在開催中のプレイアート展でも伊藤忠太やバックミンスター・フラーといった建築に関わる作家の作品も展示されているようなので、また時間を見つけて再訪したいと思います。

ワタリウム美術館
[所在地]東京都渋谷区神宮前3-7-6
[主要用途]美術館
[設計]マリオ・ボッタ
[施工]竹中工務店
[竣工]1990年

加藤泉一寄生するプラモデル
[会期]2022年11月6日〜2023年3月12日
[会場]ワタリウム美術館