展覧会|美術

地域と大学の結びつき|山形ビエンナーレ2022(2/2)

「みちのおくの芸術祭|山形ビエンナーレ2022(1/2)」から続く

みちのおくの芸術祭|山形ビエンナーレ2022(1/2) 山形県山形市を会場に、隔年で開催されている山形ビエンナーレ。ビエンナーレとは2年に1度開かれる美術展覧会のことで、2014年に...

昭和初期の小学校を創造の場に|やまがたクリエイティブセンターQ1

やまがたクリエイティブセンターQ1外観

馬場正尊さん率いるOpen Aの設計で、2022年に完成したやまがたクリエイティブセンターQ1。昭和2年に建てられた山形市立第一小学校の旧校舎を改修、生まれ変わったこの施設も、山形ビエンナーレ2022のメイン会場の一つ。ちなみに馬場さんは、山形ビエンナーレの主催である東北芸術工科大学で教鞭をとられている建築家の一人。

左:やまがたクリエイティブセンターQ1外観/右:山形ビエンナーレ2022のフロア案内

この会場では主に、参加型のプログラムが多く組まれていたよう。今回はタイミングが合わずそれらへの参加は叶わなかったものの、山形ビエンナーレの一企画として開催されていた陶器市やいくつかの展示を見ることができました。

 

美術を身近に|山の上の陶器市

元々小学校の廊下だったエリアを活用して実施された山の上の陶器市

元々小学校として使われていたこの建物、現在はショップやギャラリー、スタジオ、シェアオフィスといった複合用途の施設として転用。元々教室だった場所に様々なテナントが入っている他、今回のプログラムのひとつである陶器市は各テナント前の廊下を活用して実施されていました。

左:『「おくすりてちょう」をつくる』の展示/右:施設内各所でも展示作品をみることができた

先の記事で取り上げた文翔館や山形美術館と比べ、ここには多世代の人が訪れていたのが印象的。同じ会場でこうしたマーケットと美術展示を行うことで、これまで関心の少なかったひとでも美術を身近に感じやすい場がつくられているように感じました。

 

新旧の対比から生まれる迫力ある空間

やまがたクリエイティブセンターQ1内観。内装を剥がした後をそのままみせている

やまがたクリエイティブセンターQ1の各所には、改修の際に内装を剥がした跡が残置。あえてそれらを剥き出しでみせることで、迫力ある空間がつくられていました。各テナントの出入口では、元の建具が解体された後の荒々しい躯体と新しく取り付けられた繊細なサッシの対比が印象的。

左:教室の建具を外した跡を残しつつ繊細な建具を入れることで現代的な空間に/右:階段にも荒々しい躯体の跡が
左:中央階段。配管を剥き出して見せても違和感がない/右:既存のアーチ窓に合わせて内側にアルミサッシを増設することで止水性を強化

既存校舎の特徴のひとつであるアーチ形状の窓にも、それに合わせた形でアルミサッシを設置。建物の特徴を活かしつつ、全く新しい現代的な空間が生まれているように感じました。

山の上の陶器市(山形ビエンナーレ2022)
[会期]2022年9月3日〜2022年9月25日の金・土・日・祝
[会場]やまがたクリエイティブセンターQ1

やまがたクリエイティブセンターQ1
[完成]2022年
[設計]OpenA(オープンA)
[用途]複合施設(ショップ、ギャラリー、スタジオ、シェアオフィス等)
[所在地]山形県山形市本町1-5-19(山形市立第一小学校旧校舎)
[HP]https://yamagata-q1.com/

 

地域に根ざした商店を展示会場に|七日町・現代山形考

長門屋の展示会場

文翔館のやや南に位置する七日町。この地域では、土地に根差した店舗や施設を活用し、その空間に馴染んだ作品展示がされていた姿が印象に残りました。

左:長門屋の展示室へと誘う道路に面した門がまえ/右:緑に囲まれた長門屋の展示室

仏具の専門店である長門屋では、敷地奥の蔵を活用して、浅野友理子さんの個展を開催。たくさんの植物に囲まれた蔵内を展示会場に、切り株等をキャンバスに描かれた精緻な植物画が展示されていました。

長門屋の蔵内で開催されていた浅野友理子展。蔵独特の空間がしっくりくる作品展示

木の梁や柱が露出した空間の中で、浅野さんの作品が昔からそこにあったかのような存在感。作品と空間とがうまく結びついているように感じました。

浅野友理子「草木往来」|現代山形考(山形ビエンナーレ2022)
[会期]2022年9月3日〜2022年9月25日の金・土・日・祝
[会場]長門屋(七日町)
[所在地]山形県山形市七日町1-4-12

郁文堂書店の外観。当然ながら街並みに馴染んだ店構え

七日町東側に位置する郁文堂書店では、これまでここで行われたワークショップの記録や、学生のポートフォリオ等が展示。

この郁文堂書店、かつて斎藤茂吉や司馬遼太郎も訪れたことがある由緒ある書店だそう。しばらく閉店していたものの、山形ビエンナーレで1日限定オープンしたのをきっかけに、2017年から再オープンしたようです。

郁文堂書店内部で行われていた展示。学生スタッフの建築作品のポートフォリオも

再オープン以降は、店主と学生スタッフが一緒になって様々な企画に取り組んでいるとのこと。ビエンナーレの開催期間以外でも継続的な関係が築けるのは、地域に密着した芸術祭の理想的なありかたのひとつであるように感じました。

郁文堂書店企画展 『綴 -tuzuru-』(山形ビエンナーレ2022連携企画)
[会期]2022年9月3日〜2022年9月25日の土・日・祝
[会場]郁文堂書店(七日町)
[所在地]山形県山形市七日町2-7-23

 

様々な角度から山形の魅力を体験|gura

gura外観。前面に芝生広場がひろがり気軽に訪れやすい

石蔵二棟と土蔵をリノベーション、レストランやクラフトショップ等の入った商業施設として生まれ変わったgura。ビエンナーレの開催期間中、この施設内のレンタルスペースであるホールでは、山形県内でつくられたデザインから優れたものを選定、懸賞する山形エクセレントデザインの受賞展が開催。

左:土蔵を改修してつくられたクラフトショップの出入口/右:イベントホールで開催されていた展示の様子

石蔵らしい趣が残されたレストランやホールの外壁は、改修の際に山形県南陽市の中川石で復元されたものだそう。建物内でも新設の壁は必要最小限とすることで、石が積まれた様子を空間の意匠として最大限に活かす設計がなされていました。

建物前面に広がる芝生広場では、前々回の山形ビエンナーレ2018の際には移動書店なども開かれていたそう。

左:レストラン内観。中川石が積まれた様子は建物内からもみることができる/右:レストランのメニューのひとつである前菜

レストランでは山形でとれた食材からつくられたイタリアンを楽しむことができたりと、様々な角度から山形の魅力を教えてくれる場所。先の文翔館や七日町といった中心市街地にも近いことから気軽に立ち寄りやすく、山形へきた際にはまた訪れたいと感じた空間でした。

山の向こうのデザイン物語ー山形エクセレントデザイン展2022ー
(山形ビエンナーレ2022連携企画)
[会期]2022年9月16日〜2022年9月24日
[会場]gura

gura
[竣工]2017年
[設計]渋谷達郎+アーキテクチュアランドスケープ一級建築士事務所 
[用途]商業施設(レストラン、クラフトショップ、レンタルスペース(ホール)
[所在地]山形県山形市旅篭町2-1-41
[HP]https://gura-yamagata.jp/

すずらん通りや遊学館(山形県生涯学習センター)など、他にも山形市内各所の施設がビエンナーレの会場に。公式WEBサイト*1から過去に行われた山形ビエンナーレの様子と見比べても、回を追うごとにどんどん展示会場を広げているよう。

2年後に開催されるであろう山形ビエンナーレ2024ではどのように進化するのか、次回開催が今から楽しみになる芸術祭でした。

みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022
[会期]2022年9月3日〜25日の金・土・日・祝(会場により異なる)
[会場]山形市内各所
[HP(*1)]https://biennale.tuad.ac.jp/

(補)開学30周年を記念した卒業生展|東北芸術工科大学

東北芸術工科大学外観。独特なかたちの校舎は本間利雄設計事務所による設計

山形ビエンナーレの開催期間中、主催である東北芸術工科大学では開学30周年を記念した展覧会が開催。卒業生、修了生の作品やプロジェクトが展示されていました。絵画はもちろん、写真から立体作品まで、輩出した作家の幅の広さを実感できる内容。

東北芸術工科大学は、山形美術館と同じく本間利雄設計事務所による設計。言われてみると確かに、似たような山形形状の建築。

東北芸術工科大学内で開催されていた展覧会の様子

この展覧会では、山形の頭頂部のギャラリーも活用。上方に設けられたハイサイドライト等、この建築を特徴づける空間も同時に体験することができました。

東北芸術工科大学
[竣工]1992年
[設計]本間利雄設計事務所
[用途]大学
[所在地]山形県山形市上桜田3-4-5
[HP]https://www.tuad.ac.jp/

東北芸術工科大学 開学30周年記念展「ここに新しい風景を、」
[会期]2022年9月3日〜25日
[会場]東北芸術工科大学内1階ギャラリー、7階ギャラリー
[休館日]月、火、水(9月19日は開館)