新潟|建築

新潟県糸魚川市の建築

この記事では、新潟県糸魚川市に建つ建築群を取り上げます。元々あまり交通の便がよくなかった糸魚川市ですが、平成27年に北陸新幹線が開通、糸魚川駅ができてからは格段に訪れやすくなりました。あまり数が多くはありませんが、歴史に残るであろう名建築を見ることもでき、ぜひ一度は訪ねてほしい地域の一つです。

 

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谷村美術館

(設計)村野藤吾(竣工)1983年

(参考)http://gyokusuien.jp

 

1981年に開園した玉翠園に隣接し、木彫芸術家の澤田政廣氏の仏像を展示している美術館です。広島の世界平和記念聖堂などの設計を手がけた村野藤吾氏の最晩年の傑作で、この建築を見るために糸魚川市を訪ねた方も少なくないのではないでしょうか。玉翠園の造園を手がけた中根金作氏も昭和の小堀遠州と称えられるほどの大人物だったようで、彼らに依頼した谷村氏はどのような人物だったのだろうかと想像させられます。

建物全体は、フリーハンドで描いたような曲面でつくられた小さな建物群が寄り添い合うように集合してつくられています。ひとつひとつの小さな建物はそれぞれ展示室となっていますが、展示されている仏像は全て常設、展示替えなども一切ないそうです。外壁の窓やトップライトからの自然光が全て曲面に沿うようにして建物内に入り込み、やわらかな間接光として展示室内を照らします。模型などで相当に検討されたであろうこの光が閉鎖的な内部空間に居心地のよさを生んでおり、何時間でもいられそうな気にさせてくれます。

 

糸魚川フォッサマグナミュージアム

(設計)久米設計(竣工)1993年

(参考)https://fmm.geo-itoigawa.com

 

ラテン語で大きな溝を意味するフォッサマグナを冠するこの施設は、鉱物を中心として壮大な地球史を学ぶことのできる博物館です。糸魚川は西南日本と東北日本を分けるフォッサマグナの北西端に位置していることから、1987年にはここを地球探訪の場とする旨の提言がなされました。その後、探索により発見された断層が1990年に公園として公開され、この施設の計画へと至ったようです。

建物としては類似の用途毎にまとめられた建物間を回廊がつなぐような平面計画になっており、全て1階建の敷地の広さに余裕を感じさせる建物となっています。三角屋根のプロポーション等からは時代を感じましたが、外壁のコンクリート打放し仕上げとその型枠パネルの割付、屋根の端部納まりなどのディテールからは丁寧に設計されていることが伝わってきました。

 

糸魚川市立糸魚川小学校・ひすいの里総合学校

(設計)創・ゴンドラ・近藤設計特定JV(竣工)2014年3月

(参考)https://www.itoigawa.ed.jp/itosyo/otayori/

 

小学校と特別支援学校が併設された施設です。特別支援学校は改築前には新潟県所管で設けられていたものの、改築にあたって再整備の予定がなかったことから、以降は糸魚川市所管で整備、運営されているようです。県側で再整備をしないことになった経緯などはわかりませんが、現在の特別支援学校は通常学級と特別支援学級とがなるべく同じ場で学ぶインクルーシブの考え方が主流になりつつあるので、所管も同一の方が柔軟な運営が可能なのかもしれません。

校舎は赤いレンガで覆われた外観となっていますが、これは糸魚川駅にあった赤煉瓦車庫のイメージに由来するようです。資料には市民の要望ともあったので、地域住民との交流の中で決まっていったのかもしれません。小学校と特別支援学級の昇降口が一本化されていたり、ビオトープが広く設けられていたりとどのような使い方がされているか気になる部分も多く、機会があれば一度内部まで見学してみたい施設でした。

 

北陸新幹線 糸魚川駅

(設計)安井建築設計事務所(竣工)2014年10月

 

その施設名の通り、北陸新幹線の駅舎です。2015年までは高崎〜長野間の運行でしたが、以降は長野から金沢までが開通、東京〜金沢間の移動時間が大幅に短縮されたことで話題になりました。

駅舎自体は新幹線の駅舎らしく直方体に近いシンプルな形状となっていますが、糸魚川産の木材やヒスイの原石など、糸魚川ならではの材料が内装などに活用されているようです。また、1階にあるレンガモニュメントが目を引きますが、こちらは元々糸魚川駅構内に建っていたレンガ車庫の部材から復元されたもののようです。一見表層のみのように見えるためどのように耐力を担保しているのかとも思いましたが、裏側にはしっかりとした鉄骨下地が組まれていました。

 

えちごトキめきリゾート雪月花

(設計)ICHIBANSEN/nextstations(統括デザイン)新潟トランシス(設計・製造)(完成)2016年4月

(参考)https://www.echigo-tokimeki.co.jp/setsugekka/

 

北陸新幹線開業の際、新潟県内を走っていた旧北陸本線と旧信越本線という二つの在来線を引き継ぐ形で生まれた第三セクター経営方式の鉄道です。建築ではありませんが、一級建築士事務所により設計されたものということで取り上げました。統括デザインを担っているICHIBANSEN/nextstationsは、建築設計と並行してバスや他の鉄道の空間デザインも手がけるなど独自性の強い建築設計事務所で、新建築誌上にこの作品が掲載されたときにも異色を放っていました。

材料は基本的に全て新潟県でつくられたものが使われており、車両自体の製造も県内で行われたようです。路線沿いの風景を楽しめるよう大きな窓が設けられている他、運行時間帯によって色温度の変化する照明が採用されていたり、様々な角度から風景が楽しめるよう鉄道内の床高さに変化がつけられていたりと、建築設計者らしい空間の工夫が取り入れられていました。

 

糸魚川市駅北大火復興住宅

(設計)八木敦司+久原裕/スタジオ・クハラ・ヤギ+team Timberize

(共同設計)上越翔建設計 アジュールデザイン(竣工)2019年3月

(参考)https://www.timberize.com/index.html?target=446

 

2016年12月に発生した糸魚川市駅北大火を受けて建設された、復興住宅です。自力再建が困難な方のための市営住宅の他、1階には訪問診療所が入っています。設計者の代表である八木氏、久原氏両氏が理事を務めるteam Timberizeは、主に木造に関する技術やデザインを研究しているNPO法人で、多くの中高層木造建築を手がけています。この施設もその中の一つで、木造でありながら燃えしろ設計や認定部材を用いて準耐火構造の建物となっています。設計者はプロポーザルにより選定されましたが、大火を受けた後の復興住宅に木造を選択するという決断は、糸魚川市としても勇気が要るものであったのではないでしょうか。

準耐火認定部材である集成材厚板パネルがバルコニーの床に採用されており、軒天には木がそのまま現しで用いられています。バルコニーの手摺と合わせて目に入りやすい部分に木の表情が現れていることで、木が使われている建築であることが強く印象に残る外観となっています。また木造の中大規模建築ではよく床の遮音性能が問題にされますが、team Timberizeとミサワホーム総合研究所、淡路技研の3社により共同開発された高遮音二重床を採用することで解決が図られています。この建築に合わせて様々な技術が検討、開発されており、同規模の木造建築を設計する際には必ず参照される建物であるように感じました。

 

新潟県糸魚川市の建築は以上です。首都圏から近いとは言えない距離ではありますが、建築に興味のある方であれば時間をかけるだけの価値がある地域だと思いますので、ぜひ一度は訪ねて頂きたいと思います。

もしこの記事の情報や事実関係に誤り等ありましたら、お手数ですが問い合わせよりご一報頂けますと幸いです。