国立新美術館を始めとして、数多くの美術館やギャラリーが立地する東京六本木。中でも駅近くの東京ミッドタウン内にある21_21 DESIGNSIGHTでは、美術作家よりもデザイナーに焦点を当てた展覧会が多く開催されていて、他の美術館とは少し違った立ち位置をとっているギャラリーです。
設計は日本を代表する建築家の一人である安藤忠雄さんと、日本最大の設計事務所である日建設計。おもしろそうな展覧会が同時開催されていたこともあって、久々に訪ねてきました。
緑のミッドタウン・ガーデンに建つ低層建築
冒頭にあげた国立新美術館の他、森美術館やサントリー美術館等、美術館好きには馴染みの深い六本木駅。21_21DESIGNSIGHTを含む東京ミッドタウンは2007年に開業しているので、美術館が並ぶ風景にこれらが加わってから既に15年以上が経っていることになります。
高層で建つ東京ミッドタウンの商業エリアとは対照的に、その背後に立つ21_21DESIGNSIGHTは1階建ての低層建築。周囲を囲む芝生広場では親子が遊んでいて、繁華街とは思えない和やかな空気が流れていました。
ちなみに東京ミッドタウンを取り囲むように広がるこの広場は、設けることで容積率のボーナスを受けることができる公開空地に指定されているそう*1。これによって建築面積や建物高さ、緑地率に相当の制限がかけられたようで、それらの解決を図るために平屋が選ばれたようです。
*1:『新建築 2007年5月号』(株式会社新建築社発行,2007)より。
デザイン・ギャラリーと1枚の布
先述の通り、このギャラリーで特徴的なのは、展覧会の出展作家として美術作家以外のデザイナーが多く参加していること。このときに訪ねた展覧会「Material,or」でも「素材」「マテリアル」をテーマに、様々な分野のデザイナーによる作品が展示されていました。
そもそもこの21_21 DESIGN SIGHTの創立者は、日本を代表するファッション・デザイナーの一人である三宅一生さん。ディレクターにも三宅さんに加えてグラフィックデザイナーの佐藤卓さん、プロダクトデザイナーの深澤直人さんらが名を連ねていて、これら運営体制の布陣からも他との違いがみてとれます。
また安藤忠雄さん曰く、この建築を印象付けている1枚の鉄板を折り曲げたような屋根は、三宅一生さんの「一枚の布」のコンセプトが発想のもとになっているそう*2。
安藤さんは原宿のキャットストリートに建つ「hhstyle.com/casa(現・BANK GALLERY)」でも鉄板を折り曲げたような外装に挑戦していますが、21_21 DESIGNSIGHTでは展覧会から運営、建築までコンセプトが一貫していて、より純化された建築のように感じました。
*2:『新建築 2007年5月号』(株式会社新建築社発行,2007)より。21_21DESIGN SIGHTの公式WEBサイトでも経緯が語れている(https://www.2121designsight.jp/designsight/architecture.html)
「1枚の布」を実現した施工技術とディテール
ちなみにこの鉄板屋根、技術、施工の面でも挑戦的。大きな1枚に見えるこの鉄板、実際は2m程度に分割した鉄板を現地で溶接してつなげたようですが、通常あるはずの溶接跡がどこにあるのかわからない仕上がり。
溶接跡をグラインダーで削って目立たなくすることはよく行われますが、ここまでの精度で平坦に仕上げられている建築をみたのは個人的には初かもしれません。鉄板の上に施されている塗装もムラなく施工されていて、施工した職人達の高い技術が伺えます。
鉄板屋根と聞くと太陽熱の温度変化による伸び縮みも気になりますが、この建築では屋根の固定方法を工夫することで対応しているよう。
屋根を支える端部の支持点の内、固定しているのは各屋根2点のみ。残りは免震構造で用いるようなゴム支承を設置することで、屋根が多少変形してもゴムが追従することで問題の生じないディテールがとられているようです。
平坦な鉄板屋根を目にすると一見簡単にできそうな印象を受けますが、実際には隠れたところで様々な苦労が反映されていることがよくわかる建築のように感じました。
ちなみにこの屋根の内側には断熱が吹き付けられているのみで、他の防水層はなし。鉄板が防水の役割を担っていることにも驚かされました。
大小のスケールを生む屋根下空間
双子のように並んだ鉄板屋根のうち、西棟は元々カフェレストランとしてつくられたよう。2017年からはギャラリーに改修され、訪ねたときも東棟で開催していた展覧会とは別に吉岡徳仁さんの展覧会が開催されていました。
東西の出入口が完全に分かれていることで、今回のように二つの展覧会を同時開催することが可能に。西棟は東棟と比べて圧倒的にコンパクトで、より気軽に立ち寄りやすい展示に多く使われているようです。
斜めにかけられた鉄板屋根がつくる内部空間は、天井高に大きく変化がつけられたダイナミックな空間。最も高いところで4.4mの天井高があるのに対し、窓際では地面すれすれまで下げられています。
開放感がありながら落ち着きもある、公園の東屋のような居心地のよさは、この大きなスケール感の変化に由来するのかもしれません。
ギャラリーの機能としてはどちらかというと東棟が中心であるものの、鉄板屋根のすぐ下に作品が並んでいる西棟の方が、よりこの建築の特徴を活かした展示空間が生まれているように感じました。
地上の賑やかさから離れた地中展示室
鉄板屋根がつくるダイナミックな空間は、東棟ではエントランスロビーとして機能。メインギャラリーは受付とショップの間をくぐった先、階段を下った地下1階に集約されています。
地階の展示空間というと香川県にある地中美術館を思い出しますが、こちらもこの建築と同じく安藤忠雄さんの設計*3。地中美術館と同じく21_21DESIGN SIGHTの展示室でもコンクリート打放しが多用されていて、無骨ながらも洗練された安藤さんの建築らしい設えでつくられています。
賑やかな土地に建っていながらも地中に埋まっていることもあってか静かで、ある意味東京ミッドタウンとは切り離されたような展示空間。
*3:安藤忠雄さん率いる安藤忠雄建築研究所(構造・設備は鹿島建設建築設計本部との協働)の設計により2004年に竣工。(公式WEBサイト:https://benesse-artsite.jp/art/chichu.html)
一方、視線や音の上では地上と切り離されていながらも、地階に下りる階段から展示エリアに至るまではほぼワンルームのひとつながりの空間。階段廻りの吹抜けや展示室中央に設けられた中庭で地下と地上がつながっていることで、自然光で明るい空間が生まれています。
展示空間は中庭を取り囲むように配置されていて、展示動線もほぼ一筆書き。収蔵庫等をもたないことからもギャラリーとして取り扱われていますが、展示を巡る体験は美術館に近しいものを感じました。
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21_21 DESIGNSIGHTは、ギャラリーという用途もあって、安藤忠雄さんの設計の中では訪れやすい作品のひとつ。子供でも楽しめるような展覧会も多く、普段は美術館に行かない人達でも親しみやすい建築のように感じました。
21_21 DESIGNSIGHT
[竣工]2007年
[設計]安藤忠雄建築研究所+日建設計
[用途]デザイン文化交流施設、店舗
[住所]東京都港区赤坂9-7-6
[HP]https://www.2121designsight.jp
企画展「Material,or」
[会期]2023年7月14日〜2023年11月05日
[会場]21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
吉岡徳仁 FLAME−ガラスのトーチとモニュメント
[会期]2023年9月14日〜2023年11月5日
[会場]21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3