この記事では、岡山県倉敷市内でありながらもやや遠方にある建築群を取り上げます。公共交通機関で訪ねるにはやや距離があり、また用途的にも気軽に見学しにくい建物がほとんどですが、美観地区から離れた位置だからこそ、よりその設計者らしさが感じられる建物を見ることができます。
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倉敷市営仲庄団地
(設計)(第1期)新井千秋都市建築設計、倉敷建築設計センター企業体(第2期)スタジオ建築計画、倉敷建築設計センター企業体
(完成)(第1期)2000年(第2期)2004年
(所在地)岡山県倉敷市中庄団地
その施設名の通り、倉敷市の運営する団地の建替計画です。全体で4期に分け、元々の342戸を404戸に増やす計画のようで、1期と2期で別の設計者がそれぞれ設計を手掛けています。3期、4期もまた別の建築家による設計が予定されているようですが、以降の状況については情報を見つけることができませんでした。
団地全体のマスタープランについては各期を担当する設計者同士が議論しながら進められたそうで、高低差を活かした建物配置や緑地帯など、共通した特徴を見出すことができます。一方、それぞれが担当するエリア毎に設計者の特色が現れた建物配置となっており、比較的整列した1期部分に対し、2期部分では各建物が道路に対して雁行して配置されるなど、より様々な方向を向いた計画となっています。
各建物の意匠においても全体としての統一感を保てる範囲内で窓の配置や手摺の形状等、そのディテールに設計者ごとの違いを見ることができます。
クレールエステート悠楽
(設計)河口佳介+K2-DESIGN(完成)2014年
(所在地)岡山県倉敷市真備町有井1472
2005年に倉敷市に合併編入された真備町にある特別養護老人ホームです。カフェも併設されており、この部分誰でも入ることができます。
9室から10室程度の個室と中央ロビーが1ユニットとなり、それが複数集まって全体が構成されていることで、各ユニット毎に一体感の生まれやすい計画となっています。一見複雑な平面計画のようにも見えますが、建物中央に一直線の廊下が設けられていることで、運営もしやすいのではないでしょうか。
一般的なコンクリート打放し仕上げの壁だと冷たい印象になりがちですが、この施設では杉板型枠によるコンクリート打放しとすることで自然物のもつ温かみも感じることができる空間になっています。各所に設けられた中庭には植栽も多く植えられ、建物内にいながら四季や天候の移り変わりも感じられる建物となっています。`
カモ井加工紙
(設計)武井誠+鍋島千恵/TNA
(完成)(竣工:第三撹拌工場史料館)2012年(竣工:第二製造工場倉庫)2013年(竣工:mt新倉庫)2016年(竣工:mt裁断棟)2020年
(所在地)岡山県倉敷市片島町236
(参考)https://www.kamoi-net.co.jp/
創立から90年以上の歴史を持つ粘着紙の会社の施設です。建築用の各種テープ類を多く取り扱っていますが、一般には、mtのロゴが印象的なマスキングテープは多くの方が目にしたことがあるのではないでしょうか。2012年に史料館の設計を手掛けたことを皮切りに、倉庫や工場等の各建物の設計をTNAが継続的に請け負っています。
どの施設も建物を支える鉄骨などの構造をそのまま現しで見せる表現となっています。一般的な工場というと薄暗く無骨な印象を想像しがちですが、繊細なプロポーションの鉄骨かつ溶接などを駆使した抽象的なディテールでつくられていることで、明るく浮遊感のあるCGにも見えるような空間となっています。TNAの設計する建築には繊細な構造を活かしたものが多く、その特色が工場という用途と組み合わさることで遺憾なく発揮されているように思われます。
岡山県倉敷市の建築のうち、市のやや周縁部に位置する建築群は以上です。一部の建築については見学会を実施することもあるようですので、機会を見つけて筆者も現地を訪ねてみようかと思います。
もしこの記事の情報や事実関係に誤り等ありましたら、お手数ですが問い合わせよりご一報頂けますと幸いです。