長野|建築

軽井沢町の建築(中軽井沢駅北編)

この記事では、長野県の軽井沢町のうち、中軽井沢駅の北方面に建つ建築群を取り上げます。この辺りには星野リゾートを中心に多くの宿泊施設が集まっています。

中軽井沢駅の近くには軽井沢駅との間にも著名な設計者らによる建築群がありますが、中軽井沢駅北の建築は数が多いことから、次回以降の記事にて別途取り上げる予定です。

 

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軽井沢高原教会(星野遊学堂)

(設計)不明(完成)1921年(当初竣工)1965年(改築)

(参考)https://www.karuizawachurch.org/

 

現在では礼拝や結婚式が行われるなど教会として使われていますが、当初は多くの文化人が集まる講演会場として建てられたようです。周囲を星野リゾートの施設に囲まれた位置に建っています。昭和期に一度改築されたようですが、当初の姿がどの程度残っているのかはよくわかりませんでした。

建物は二等辺三角形の屋根が地面すれすれまで伸びており、幾何学性の強い外観となっています。木造三角屋根かつシンプルな平面形状の建物ですが、プロポーションの操作でここまで他の建物と違ってみえるのだと思わされる建物でした。

 

セゾン現代美術館

(設計)菊竹清訓建築設計事務所(竣工)1981年

(参考)https://smma.or.jp/

 

企業メセナのさきがけともいえるセゾングループの名を冠した美術館で、現代美術を中心に収集、展示されています。セゾングループといえば元々西武グループの一部門でしたが、その西武グループの創業者、堤康二郎の所有していた日本伝統美術を所蔵していた高輪美術館がこの美術館の前身にあたります。堤康二郎氏の実子である堤清二氏は、池袋の西武百貨店内に西武美術館(後のセゾン美術館)を開館、当時最新の現代美術を多く紹介したことで知られていますが、彼を中心とするセゾングループの現代美術コレクションが増えてくる中で、それらの展示のためにこの美術館の主軸も彼が担うようになり、美術館自体も軽井沢へと移転することになったようです。

建物の設計は菊竹清訓氏が手がけていますが、コンクリート造でありながら勾配屋根かつ垂木のようなものが見られる和風を感じさせる意匠となっています。先入観も多分にあるかと思いますが、正面のガラスに周囲の緑が映り込んだときには上部の屋根が浮遊してみえ、菊武氏の建築らしさのようなものが感じられました。

 

田崎美術館

(設計)原広司+アトリエ・ファイ(竣工)1986年

(参考)http://tasaki-museum.org/

 

文化勲章も受章した田崎廣助氏の作品を所蔵する美術館です。田崎氏は軽井沢にアトリエをもっていたそうで、この美術館の建設も本人の意思によるもののようです。現在は財団法人にて運営されています。

建物は原広司氏による設計ですが、雲形の屋根や輪郭がガクガクしているガラス面など、原氏ならではの文法が各所に散りばめられています。原氏の設計による建物をみたのはおそらくこれが初めてだったかと思いますが、どこか浮遊感があるようなこれまでに体験したことない空間だった印象があります。ハイサイドライトも多く設けられており、建物内もやわらかな自然光でつつまれる空間となっています。なお、昭和61年に日本建築学会賞を受賞しています。

 

石の教会 内村鑑三記念堂

(設計)ケンドリック・バングス・ケロッグ(竣工)1988年

(参考)https://www.stonechurch.jp/

 

アメリカ出身の建築家、ケンドリック・バングス・ケロッグの設計による教会で、地下はキリスト教思想家である内村鑑三氏の記念館になっています。教会とはいっても十字架などはありませんが、これは内村氏の「無教会思想」が反映されているようです。結婚式などでもよく使われており、軽井沢の教会の中では有名な部類に入るのではないでしょうか。星野リゾートの施設が集まる中に位置しています。

石の教会というだけあって、建物はいくつものコンクリートアーチが連なってほぼそれのみで形成されています。アーチ同士の隙間には全てガラスが嵌め込まれており、ここから自然光がさんさんと降り注ぐ明快な構成となっています。1階周囲の壁には全て石を積み上げたような仕上となっていますが、これを見たときには沖縄のグスクを思い出しました。

 

軽井沢ホテルブレストンコート

(設計)東環境・建築研究所/東利恵(竣工)1995年

(参考)https://www.blestoncourt.com

 

創業の地かつ本社所在地ということで、軽井沢には星野リゾートの施設が多く集まっています。この建物は2021年6月時点の代表である星野佳路氏が代表になってから手がけたホテルおよびブライダル施設で、元々あったホテルニューホシノが東利恵氏の設計によって改修されたもののようです。東氏は現在では星野リゾートの施設の多くを手がけていますが、両氏が交わった第一作なのではないでしょうか。

どこまでが既存建物の要素なのか詳細まではわかりませんが、楕円の平面形状をしたラウンジや湾曲する壁面は少なくとも東氏の手によるもののようです。全体的に暖色系の色で統一された館内において、湾曲した青色の大壁面は強く印象に残りました。周辺で暮らす人には新築だと思われていたようなので、現在の姿は大部分が東氏の設計によるものなのかもしれません。

 

星野温泉 トンボの湯・村民食堂

(設計)東環境・建築研究所/東利恵、オンサイト計画設計事務所(竣工)2002年3月

(参考)https://www.hoshino-area.jp/archives/area/tonbo

 

他施設と同じく東氏の設計による施設で、温泉と食堂が隣接して建てられています。温泉旅館からはじまった星野リゾートだけあって、力の入ったプロジェクトだったのではないでしょうか。村民食堂というだけあって温泉と共に外来用につくられており、周辺施設に宿泊しない方でも利用できるようです。

建物としては全体的にシンプルな平面計画となっていますが、そのために村民食堂に挿入されたラグビーボール形状の客席が際立って見え、空間を特徴付けています。外壁も黒を基調とした落ち着いた色彩でまとめられているため、ところどころに使われている木材の色が印象に残りました。木の柱の柱脚のディテールなどは、軽井沢の後の作品にも引き継がれています。

 

星野リゾート 軽井沢ホテルブレストンコートプライベートコテージ

(設計)東環境・建築研究所/東利恵、オンサイト計画設計事務所(竣工)2005年4月

(参考)https://www.blestoncourt.com/

 

その名の通り星野リゾートがプライベートコテージとして計画した施設で、上述の軽井沢高原教会に隣接した位置に2m角ほどの小さな客室が集合して構成されています。プライベートとはいってもあくまでも宿泊施設であるため、ホテルブレストンコートとして誰でも宿泊することができます。

建物は一見杉板型枠のコンクリートによる荒々しい外観ですが、室内は床壁天井が白く統一された中に木調の建具や家具が並ぶ抽象的な空間となっています。周辺にある他の星野リゾート施設と比べると周囲の自然とは切り離された空間となっており、どちらかというと軽井沢のリピーター向けの宿泊施設のように感じました。

 

星のや軽井沢

(設計)東環境・建築研究所/東利恵、オンサイト計画設計事務所(竣工)2005年6月

(参考)https://www.hoshinoresorts.com/resortsandhotels/hoshinoya/karuizawa.html

 

星野リゾートの名の一部を冠する宿泊施設「ほしのや」は現在では全国各地にできていますが、ここ軽井沢は星野リゾートの前身である星野旅館が創業された土地ですので、この施設こそまさしく星野リゾートを代表する宿泊施設だといってよいかと思います。他のほしのや同様、建築設計を東利恵氏、ランドスケープ設計をオンサイト計画設計事務所が手がけています。

客室は、それぞれ小さな一軒家程度の大きさの建物が、集落をつくるようにして建ち並んでいます。建物自体の意匠は三角屋根のプロポーションが特徴的な他は落ち着いた、ささやかなものとなっており、起伏に富んだ水景や植栽の風景を体験することに力点がおかれているようです。意匠はささやかであっても様々な高さや視点から周囲の風景が楽しめるように設計されており、空間体験としては豊かなものになっています。

発表されているテキストによれば、東氏は既存の風景を残すというよりも、このリゾート自体が風景となるように意図して設計したようです。敷地内に生えていた樹木のみを活用したり、既存の地形を読みながら配置計画を行なっていたりはするものの、実際、水景をなどにはかなり手が入れられているように思います。これに対する賛否両論はあるかと思いますが、少なくとも自然と建物が共存する風景としてはとても完成度の高いものになっていると感じました。

 

ハルニレテラス

(設計)東環境・建築研究所/東利恵、オンサイト計画設計事務所(竣工)2009年6月

(参考)https://www.hoshino-area.jp/shop

 

軽井沢の星野リゾートエリアにある商業施設です。商業施設とはいっても平家の小さな建物が向かい合って並んだ集落のような施設で、建物の間には起伏に富んだテラスのような場所が道状の空間に沿って設けられています。隣接する川に向けて伸びるデッキなどもあり、訪れた人のほとんどはこの建物外の空間でくつろいでいました。

建物としては同じ星野リゾートエリアで東氏が設計した、とんぼの湯や村民食堂、ほしのやと似た文法でつくられていますが、建物間のテラスのような床は起伏のある地形に部分的に基礎をつくり、鉄骨を渡してつくられているようです。この方法であれば造成工事などは少なく済みそうですので、既存状況の改変を最小限にしようと意図されたものかもしれません。

 

地域交流施設 くつかけテラス

(設計)宮本忠長建築設計事務所、トーニチコンサルタント(竣工)2013年

(参考)https://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1001000000823/index.html

 

中軽井沢駅に併設されている施設で、いくつかの店舗や観光案内所、多目的室の他、大部分は軽井沢町立図書館となっています。駅直結ということでアクセスもよく、図書館も19時まで開いているので多くの方に利用されているのではないでしょうか。

建物は松本市立美術館なども手がけた宮本忠長氏の設計です。ただ、個人的には宮本氏らしさのようなものはほぼ感じられず、後から調べて彼の設計だとわかりました。図書館を中心に全体的に木調の仕上げが多く用いられており、いわゆる公共施設らしい建物だと感じました。

 

ししいわハウス

(設計)坂茂建築設計(竣工)2018年8月

(参考)https://www.shishiiwahouse.jp/

 

中軽井沢駅北の宿泊施設が集まるエリアにある、坂茂氏の設計による宿泊施設です。宿泊施設としてはやや小規模な部類ですが、当初は別荘兼Airbnbのためのものとして構想されたようです。

建物は坂氏が過去作品でも試みてきたPHPパネルにより構成されています。これは間にペーパーハニカムを入れ込んだ木のボックス梁を構造用合板で挟んだパネルで、基本的にはこれらパネルを工場で製作、現地で組み立てる方法で建設されたようです。既存樹木をなるべく切らないようぐにゃぐにゃとした平面計画になっていますが、仮に鉄骨やRCでつくると周囲の樹木は切らざるを得ないと思いますので、元の環境を尊重した構法だとも言えるのかもしれません。

 

 

今回取り上げた長野県北佐久郡軽井沢町の建築(中軽井沢駅北編)は以上となります。情報や事実関係に誤り等ありましたら、お手数ですが問い合わせよりご一報頂けますと幸いです。