昨秋訪ねた兵庫県立美術館は、世界的に有名な建築家、安藤忠雄さんの代表作のひとつ。竣工は2001年で、兵庫県に隣接する大阪に建てられた司馬遼太郎記念館や狭山池博物館と同じ年。2018年には新たに増築もされたと聞き、訪ねてきました。
無骨さに親しみやすさをあわせ持つ外観
最寄駅である灘駅からおよそ徒歩15分、大阪湾沿いを走る灘浜脇浜線に面して立地している兵庫県立美術館。道路に面して3つの直方体が並び、その間から大きく庇を張り出した堂々とした佇まいで建っていました。
大庇の足元には大阪湾側へと抜けるプロムナードが設けられ、来館者を迎えるように白御影石張りの門型フレーム。ここが美術館出入口へのメインアプローチとなっていて、直方体の間をくぐり抜けてエントランスへ向かう動線計画。
コンクリート打放しの印象が強い安藤さんですが、この建築では道路に面する外壁には鉄板を多用。ただ、鉄板を単に塗装して使うのではなく、溶融亜鉛メッキリン酸処理を施すことで自然素材のような風合いに。
美術館という用途もあってか、コンクリート打放しに似た無骨さや素材感をもちつつ、高級感も有する素材が選択されているように感じました。
なお、屋上にいる巨大なカエルはオランダのアーティスト、フロレンティン・ホフマン氏の作品。2011年に設置され、無骨な美術館に親しみやすさを加えるアクセントとして、かわいらしく座っていました。
基壇と3つの直方体によるシンプルな構成
建物の構成としては、割り肌の白御影石で仕上げられた基壇の上に、ガラスや鉄板の外皮で覆われた3つの直方体が並べられたシンプルなもの。平面計画としては、西側に主に美術館としての機能が、東側にギャラリーやミュージアムホール、カフェといった気軽に立ち寄りやすい機能が充てられていました。
両者の間にはメインアプローチであるプロムナードや屋外展示スペースを挟んでおり、それぞれの利用者の動線を明確に分けることが可能な計画。屋外からの出入口が東と西で別にも設けられており、それぞれ個別に開館することもできる使いやすそうな平面計画がなされていました。
空間を生み出すコンクリート打放しの階段
安藤忠雄さん設計による建築の多くがそうであるように、この美術館でも各所に設けられているコンクリート階段が建築の魅力を高めている要素の一つ。
1階のエントランスホールに隣接し、上階の企画展示室へとアプローチする大階段は、吹抜上部に大きくトップライトが設けられた自然光で満たされた空間。エントランスホール側の全面を半透明のガラスで覆うことで、ホール全体をぼんやりと照らす光の壁のようにも機能していました。
展示室手前に設けられた4層吹抜の大階段は、展示室への入口を正面に構えることで高揚感を高めてくれ、もう一つのエントランスホールのような存在に。段差を強調した階段形状や繊細な手摺によって美しく打たれたコンクリート打放しが強調され、空間の緊張感も演出。
こうした美術館内部の緊張感のある大階段とは対照的に、屋外展示スペースには円弧を描く大らかな螺旋状の階段が。基本的に直角や垂直で構成されたこの建築において、空を円形に切り取るこの階段が空間的なアクセントになっているように感じました。
この階段を登ると、眼前には大阪湾とその前に広がる広々とした屋外広場が。美術館の他の部分とは少し違った階段を経由することで、美術館での緊張感ある体験から気分の切り替えができるよう意図されたのかもしれません。
大阪湾と向かい合う迫力ある大庇と大階段
螺旋状の階段を登った先には、大阪湾沿いへと下る大階段。美術館を構成する3つの直方体から伸びる大庇や、大階段を下った先に展示されたヤノベケンジさんの「サン・シスター」と合わせ、大阪湾へと向かうダイナミックな景観を生んでいました。
大阪湾沿いの神戸市水際広場、500mにも及ぶこのランドスケープも、実は安藤忠雄さんの設計によるものだそう。美術館自体は国際公募型のプロポーザルで設計者が選定されていますが、安藤さんはそのプロポーザルが発表される前からこの水際広場の設計を進めていたようです。
同じ設計者ということもあって、動線的にも景観的にも違和感なく調和。
大階段の手前に展示されている巨大な青りんご、この立体作品も安藤忠雄さんによるもの。安藤さんによる青りんごは他に大阪の「こども本の森中之島」でもみることができますが、元々はこの美術館で設置されたのが先のよう。
背景に大阪湾がひろがっていることもあって、訪ねたときは多くの来館者でにぎわう一番のフォトスポットになっていたのが印象的でした。
設計者の寄贈による増築ーAndo gallery
美術館とミュージアムホールの間に設けられた屋外展示スペース、その屋上にある屋内展示室が2018年に増築された部分。大きな3つの直方体とプロポーションが揃えられた小さな直方体で、既存部分と自然な形で調和していました。
展示室内では外装でもみられた割り肌の白御影石も使用され、美術館の要素を凝縮したような空間。
驚くべきは、この展示室自体が「Ando gallery」と名付けられ、安藤忠雄さんの建築作品を展示する専用空間となっていたこと。公共の美術館でも特定の美術家専用の展示室が設けられていることはままありますが、建築家の作品を展示する専用の室は個人的には他では聞いたことがありませんでした。
調べてみるとこの増築部分、先の青りんごと合わせ、安藤さんからの寄贈によりつくられたものだそう。プロジェクトの始まりは美術館側からの依頼とのことで、美術館が設計者を信頼し、設計者はそれ以上の形で館に応えるという、理想的な関係性が生まれているように感じました。
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安藤忠雄さんの設計による建築は全国各地にあるものの、ここまで大規模なものは国内では貴重。自然光を活用した空間やコンクリート打放しの表現はもちろん、他の素材の取扱いを見ることもでき、大規模建築ながらも細やかなところまで配慮された密度の濃い空間を体験することができました。
また増築の経緯や来館者の様子からは、安藤さんがみなに愛されていることが伝わってき、その偉大さを再認識させられる建築でした。
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兵庫県立美術館
[所在地]神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1(HAT神戸内)
[主要用途]美術館
[設計]
安藤忠雄建築研究所、兵庫県県土整備部まちづくり局営繕課(建築)
木村俊彦構造設計事務所、金箱構造設計事務所(構造)
森村設計、兵庫県県土整備部設備課(設備)
[施工]大林・清水・鴻池・神鋼興産建設・明和・山田特別共同企業体(建築)
[竣工]2001年
兵庫県立美術館 Ando gallery
[所在地]同上
[主要用途]美術館
[設計]
安藤忠雄建築研究所(建築)、金箱構造設計事務所(構造)、森村設計(設備
[施工]大林組(建築)
[竣工]2018年