大阪|建築

こども本の森中之島|建築家の想いが集約されたこども図書館

新旧の有名建築が建ち並ぶ大阪市中之島に、2020年に開館したこども本の森中之島。日本を代表する建築家の一人、安藤忠雄さんの設計によるこどものための図書館が完成したとのことで、前回取り上げた大阪中之島美術館と合わせて見学に伺ってきました。

建築家 安藤忠雄氏の提案、寄附により生まれた図書館 

中之島通から図書館をみる。青りんごの奥には堂島川の奥にかかる環状線がみえる

大阪中央公会堂のやや東、なにわ橋駅のすぐそばに建つこども本の森中之島。川向いからもよく目立つのは、大階段上のメインエントランス脇に置かれた巨大な青りんご。

作品名が「青春」と題されたこの青りんごは、美術館と同じく安藤忠雄さんのデザインによるものだそう。前々回取り上げた兵庫県立美術館に続く連作として、この図書館にも設置されていました。

堂島川側からの外観。川向いからも巨大な青りんごがよく見える

図書館自体は、安藤さんらしい鉄筋コンクリート打放し仕上げの建物。この無骨ともいえる風貌の建物の隣にあることで、この青りんごがマスコットキャラクターのような存在感に。

そもそもこの建築は、安藤さんが設計を手がけただけでなく、事業そのものも安藤さんの提案により生まれたものだそう*1。建物自体も安藤さんが大阪市に寄附するかたちで建設されたとのことで、兵庫県立美術館の増築としてつくられたANDO GALLERYになぞらえれば、ANDO LIBRARYとでも言えるのかもしれません。

*1:こども本の森中之島WEBサイトより。WEBサイトには安藤さんがこどものための図書館を提案するに至った想いも掲載されている。なお、施設の運営費用についても、安藤さんに賛同した人が大阪市に寄附を行うことでまかなわれているよう。
URL:https://kodomohonnomori.osaka/about/

 

図書館へと誘うダイナミックな大庇と大階段 

中之島通からの外観。大庇と大階段が目をひく

中之島通を歩いていてまず目に入るのは、図書館の入口へと誘うダイナミックな大庇と大階段。

大庇は軒天井側に梁を出さない納まりとすることで、一見薄い庇の厚みだけで支えられているかのよう。軒先に取り付けられているT型の鋼材(カットT)により、庇の繊細さがより際立って感じられました。

大庇のディテール。軒先のカットTで防水を押さえているよう

庇の天井面についても、型枠の割付が整えられたミニマルなコンクリート打放し仕上げ。見る人がみれば一目で安藤さんの建築だとわかる意匠で、施工の美しさや緊張感がひしひしと伝わってきました。

大庇の奥にひろがるテラス。堂島川を一望できる

大階段を登った先に広がるのは、図書館の向こう側に流れている堂島川を一望できる展望テラス。2階であるこの場所が図書館のメインエントランスにもなっていて、図書館を訪れた人は誰しもが堂島川を目にする動線計画がとられていました。

左:コンクリートの躯体が風景を切り取る額縁のように機能/右:大庇の下にはこの建築の模型も展示され周囲との関係性がよくわかる

コンクリート打放しの壁や柱、大庇に囲まれたフレームが、風景を切り取る額縁のように機能。この建築から眺めることで、図書館の向こう側に広がる堂島川の風景がより美しく感じられたのが印象的でした。

 

中之島通と堂島川をつなぐ建築のありかた

堂島側沿いの遊歩道。石積の塀は無骨すぎないための配慮か

堂島川沿いに連なる遊歩道に隣接して建っていることも、この図書館の立地上の特徴の一つ。建物の脇には中之島通とこの遊歩道をつなぐように、スロープ状の遊歩道が設けられていました。

中之島通から遊歩道へと設けられた緑に覆われたスロープ、ランドスケープ

スロープの周囲には、多くの樹木が植えられた緑のランドスケープ。川沿いの遊歩道は多くの人の散歩道やランニングコースになっているようで、このスロープもその一部として、多くの人に利用されている姿を目にすることができました。

堂島川を落ち着いて眺めることのできる展望テラスも含め、新しく建物を建てることで風景を遮るのではなく、既存の風景を活かすための一つのあり方がこの建築で示されているように感じました。

 

広々としながらも身近に感じられる図書空間

図書館のエントランス。ショップも含め図書館の書架のような什器で計画されていた

広々とした展望テラスに設けられた出入口から建物内に入ると、一転してコンパクトなヒューマンスケールの空間に。一般的な図書館と比べて通路幅なども抑えられ、こどもにとって落ち着くであろう大きさで計画されていました。

受付カウンターからショップまで本棚のような什器に囲まれ、出入口まわりから図書館らしい設え。

図書館の奥にひろがる階段と吹抜け。1階から3階をひとつながりに

書架に挟まれ、大人がギリギリすれ違えるほどの通路を進んだ先に広がるのは、メインエントランスのある2階と上下階をつなぐ階段と吹抜け。2階から3階への階段はこども達にベンチとして使われていて、階段という移動空間にとどまらない、こども達の居場所が生まれていました。

左:吹抜けに面する壁は一面本棚/右:大階段はベンチに

これらのまわりの壁は一面本棚で覆われていて、建物内のどこにいても本を身近に感じられる空間。吹抜けからすべての階の書架が一望できることで、1階から3階の一体感がより高められているように感じました。

吹抜けに面する壁は一面本棚

この図書館ではメインエントランスが2階にあることから、1階へも3階へも階段を一つ登り降りするだけで行き来可能。この動線計画に加え、吹抜けと壁面書架を介して空間がひとつながりに見えることで、広々としながらも同時に建物全体が身近に感じられたのが印象的でした。

安藤氏の建築を象徴する光の空間 

図書館の1階。広々とした2、3階と比べ落ち着きのある空間

明るく広々とした2、3階に対し、1階はその半分が地中に埋まった落ち着きのある空間。上の階と同じく壁一面を書架で覆われた閲覧室に加え、書架の間をくぐった先によりコンパクトな2つの円筒形の図書空間が設けられていました。

1階に設けられた円筒形の空間。一方はより集中して本を読むことができる読書空間

2つの図書空間のうち、一方は数人で埋まってしまうほどの小さな閲覧室。壁一面を書架で覆われた円筒の中央をトップライトからの自然光が照らし、より集中して本を読むことができる読書空間となっていました。

1階に設けられた円筒形の空間。トップライトによる安藤忠雄さんの建築らしさのある光の空間

もう一方は、壁がコンクリート打放しで仕上げられた空っぽの空間。円弧状の壁面に本から抜き出したと思われる映像が投影され、読書とは違う形で本と触れ合う展示室として使われていました。

この空間はコンクリート打放しであるだけでなく、10mを超える高さの天井に設けられたトップライトから自然光が差し込む、安藤さんらしい光の空間。書架に囲まれたあたたかみのある建物の最奥に、図書館という機能によらないこの空間が位置していることが、建築家の強い想いを象徴しているかのようでした。

 

現在では世界各地で設計を手がけている安藤さんも、元々は大阪市で生まれ、大阪市から設計のキャリアをスタートさせた建築家。その土地で生まれたこの図書館は、事業の始まりから施設運営まで、これまで安藤さんの人間性が培ってきたものがあったからこそ実現しているプロジェクトと言え、様々な意味で集大成のひとつであるように感じました。

安藤さんの寄附、設計によるこどものための図書館は、大阪を皮切りに、遠野、神戸にも完成しているよう。寄附をすることはどのような形であれ尊敬すべきことですが、さらにそれを自身で設計した建築という形で残していく建築家のありかたは、理想形のひとつとして憧れずにはいられません。

こども本の森中之島
[所在地]大阪府大阪市北区中之島1(中之島公園)
[主要用途]図書館
[設計]安藤忠雄建築研究所(建築)
[施工]竹中工務店(建築)
[竣工]2019年