大阪|建築

大阪中之島美術館|落着きあるブラックボックスと開かれたランドスケープ

2022年、大阪市北区の中之島に開館した大阪中之島美術館。2016年から2017年にかけて公募型の設計競技が行われ、遠藤克彦さん率いる設計事務所が設計者として選定されました。

競合に大御所の建築家や大手組織設計事務所が並ぶ中、当時まだ40代の遠藤さんが設計者に選定されたということで、ずっと気になっていた作品。竣工したと聞いて訪ねてきました。

 

黒々とした中之島のランドマーク

大阪中之島美術館の遠景。黒々とした直方体が遠くからも目をひく

中之島駅のやや東、国立国際美術館の向かい側に、堂々とした佇まいで建つ大阪中之島美術館。黒々とした直方体が目を引き、高層建物の隙間や川の向かいからもその存在がわかる中之島のランドマーク的存在となっていました。

大阪中之島美術館近景。細やかな凹凸がつけられていることがわかる

遠くからみると単なる黒い箱にみえる外観も、近づいてみると外壁材の細やかな凹凸が。単に黒い外壁材を使用するだけでなく、この凹凸から生まれる陰影が外観をより黒々と見せているよう。

大阪中之島美術館の仕上げ。コンクリートの表面をウォータージェット加工で削り出すことで凹凸をつくっている

この外壁に使用されているのは、コンクリートの表面をウォータージェット加工で削り出したプレキャスト・コンクリート版(PC版)。砕石には岩手県産と京都宇治産のものが使われ、黒色顔料を混ぜ込みつつ、これらの砕石を剥き出しにすることで細やかな凹凸と質感を出しているよう。耐候性や砕石の落下防止には、表面にはシリカコーティングを施すことで対処。

大阪中之島美術館の仕上げ。PC版の割付とは別に、1mごとに目地が入れられている

PC版には1枚の大きさに合わせた目地とは別に、1m毎の目地。シンプルな黒い箱でありながら単調になりすぎていないように感じるのは、こうした材料やディテールへの細やかな配慮によるものなのかもしれません。

 

開放的かつ現代的なランドスケープ 

緑に囲まれた大阪中之島美術館。

中之島美術館の足元には、緑豊かなランドスケープが展開。美術館のメインエントランスは2階に設けられていて、これらの緑の間を潜り抜けるように大階段やスロープを登ってアプローチする動線計画。

美術館の足元に広がる緑のランドスケープ。道路から教会なくつながっている

この丘状のランドスケープは道路から境界なくつながっていて、いつでも誰でも入ることが可能。早朝にはランニングや犬の散歩をしている人も見かけ、多くの人に利用される場になっているようでした。

周囲にはベンチや美術作品も。ヤノベケンジさんの作品「スペース・キャット」はフォトスポットになっていた

建物自体はやや閉じた印象の、格調高い美術館然とした建ち方。一方で、外構が開放的かつ多様性に富んだ植栽が植えられていることで、現代美術館のような今っぽさが同時に生まれているように感じました。なお、ランドスケープは石井秀幸さんが代表を務めるスタジオテラによる設計。

美術館の北側には現代美術家であるヤノベケンジさんの作品「スペース・キャット」も展示されていて、来館者のフォトスポットとしてにぎわっていました。

 

ぼんやり明るい吹抜とダイナミックなエスカレーター

美術館のエントランス。奥にみえるガラスボックスが風除室
1階を覆うガラスカーテンウォール。屋内外の天井は同じプラチナシルバーのアルミルーバーでより連続して感じる設えに

メインエントランスのある2階は、西側を除く3面がガラスカーテンウォールで覆われた開放的な外観。ガラス面が3階以上の外壁から3mほどセットバックしていることに加え、屋内外の軒天が同じアルミルーバーで仕上げられていることで、内部空間と外部空間がより連続して感じられる設えとなっていました。

美術館中央の4層吹抜けを貫くダイナミックなエスカレーター

南北に設けられた風除室から美術館に入ると、目を引くのは2階から5階にかけて建物中央に設けられた4層吹抜け、それを貫くダイナミックなエスカレーター。2階全体をやや薄暗く、明るさを抑えることで、吹抜上部のトップライトから差す自然光がより際立つ照明計画。

美術館中央の吹抜け。プラチナシルバーのアルミルーバーに光がぼんやりと反射
エスカレーター周囲
吹抜けからは1階までをひとつながりに見下ろすことができる

軒天と同じプラチナシルバーのアルミルーバーで仕上げられた壁面に、自然光がほのかに反射し、ぼんやりとした光で満たされた落ち着きのある空間が生まれていました。

2階奥をみる。トイレやバックスペースが配置され、耐震要素も集約されているよう

なお、2階西側はトイレや事務室といったバックスペースを配置、耐震要素を集約した耐震コアとして計画されているよう。上に3層分の荷重を支えつつ、外周部の柱がφ300mm程度と小径に抑えられていることで、建物内にいながらも屋外の風景をより近くに感じられました。

 

美術館を貫く光のパッサージュ

展示室前のパッサージュ。周辺地域を見下ろすことができるのびのびとした空間

4層吹抜を貫くエスカレーターを登った先には、展示室前の広々としたロビー空間。4階では東西に、5階では南北に大きな窓が設けられ、それらをつなぐようにパッサージュと呼ばれるのびのびとした空間がひろがっていました。

建物自体が敷地境界から十分に距離をとって建っていることから、窓からは周辺地域を見下ろすことが可能。

パッサージュのガラスカーテンウォール。三角形のパターンでガラスを支持

窓を構成しているガラスカーテンウォールは、三角形が折り重なったようなパターンが印象的。一般的なガラスカーテンウォールにみられる垂直の柱や梁(方立や無目)ではなく、一見模様のようにもみえるこれらの部材でガラスを支えることで、特徴ある空間が生まれていました。

パッサージュの光天井。夜に外から眺めるとパッサージュがぼんやりと浮かび上がる
パッサージュに設置されているヤノベケンジさんの作品「ジャイアント・トらやん」

4階、5階のパッサージュは、周辺地域からもその内部空間が透けて見える計画。天井全体が明るい光天井の設えであることで外からも窓越しに三角形のパターンが見て取れ、黒い直方体で構成された外観のアクセントとして、美術館を印象付ける特徴の一つになっているように感じました。

 

緑のランドスケープに面するカフェ、ショップ

1階に設けられたテナントエリア。レストラン(左)とインテリアショップ(右)が入っていた

2階から4階にかけて設けられた美術館の展示室としての機能の他、この大阪中之島美術館の1階には、ホールやショップといった他の機能も内包。特に、大きく二つに分けて設けられたショップエリアには、屋外からの直接の出入口が設けられ、美術館内を経由しなくとも利用できる計画がとられていたのが印象的でした。

テナントへは屋外から直接出入可能。閉館時にも利用しやすく緑で居心地のよい場に

美術館に設けられているミュージアムカフェは、空間の落着きが優先されているせいか、どうしても館の奥のほうに計画されがち。この美術館では道路に面して配置されていることで、美術館が閉館しているときでも開店できる計画。

にぎやかな緑のランドスケープや散歩道ともつながり、より多くの人に利用しやすく、居心地のよい場になっていました。

 

大阪中之島美術館では、19世紀から今日までの国内外の美術館を核としつつ、大阪で展開された芸術に焦点をあてたコレクションが収蔵されているそう。訪ねたときにはモディリアーニの展覧会が開催されていたこともあってか、近年よく見られる明るく開放的な美術館というよりは、落ち着きのある美術館らしい美術館という印象を受けました。

一方で、美術館の外構では気軽に訪れることのできる開放的なスペースが展開され、他の現代美術館とはまた違った、現代的な美術館の形を体験することができました。

 

大阪中之島美術館
[所在地]大阪府大阪市北区中之島4-3-1
[主要用途]美術館
[設計]
 遠藤克彦建築研究所、大阪市都市整備局(建築)
 佐藤淳構造設計事務所(構造)
 東畑建築事務所他(設備)
 スタジオテラ(ランドスケープ)
[施工]錢高・大鉄・藤木特定建設工事共同企業体(建築)
[竣工]2021年