江戸時代から大正時代、住宅や醤油醸造所として使われていた古建築・古民家が建ち並ぶ《四国村ミウゼアム》。香川県高松市屋島の自然豊かな土地に移築・復元された建物が集まった、いわば建築の美術館です。
昭和51年に開館、年々建物を増やしていったようで、2022年には川添善行さんの設計によるエントランス建物も完成。安藤忠雄さん設計のギャラリーも見られると聞いて、高松の市街地から電車に揺られ足を運んできました。
四国村ミウゼアムの最寄り駅、琴電屋島駅。昭和レトロを感じる建物は昭和4年に建てられたもので、近代化産業遺産にも認定されているそう
四国村ミウゼアムへの導入部。奥に見える大屋根の建築がエントランス建物で、手前に見える緑色の建物が四国村カフェ。元々は1905年にイギリス人の夫婦が建てた住宅で、現在は登録有形文化財にも指定されているそう*1 (*1:四国村ミウゼアムHPより。URL:https://www.shikokumura.or.jp/guide/facilities/shikokumura-cafe/)
左:コンクリート打放の躯体でつくられた館名サイン。勾配屋根の小さな家のようなかたちをしている/右:四国村カフェを正面から見る。明治後期のコロニアル様式の特徴を見ることができる貴重な建物。ちなみにカフェは年中無休で営業しているそう
四国村ミウゼアムのエントランス建物にあたる《四国村ミウゼアム『おやねさん』》。設計を手がけたのは川添善行さん率いる空間構想で、2022年に竣工。生き物のような三次曲面の屋根が目を惹く
《おやねさん》の軒下から周辺の街並みを眺める。右手に見える民家は江戸時代末期の姿を残した郷土料理店、わら家。《おやねさん》に勾配屋根が採用されているのは周辺の風景との調和が意識されたものなのかもしれない
左:《おやねさん》1階からの見上げ。鉄筋コンクリート造の基壇部の上に鉄骨の柱・鉄骨梁が建てられ、その上に木造の屋根が載っている。登り梁にはヒノキ集成材が使用されているよう/右:四国村ミウゼアムのチケットカウンター。待合スペースは南北に風が抜けて気持ちがいい
左:西面の日除けに使われている木片は東日本大震災で被災した住宅の古材が使われているそう*2 /右:待合スペースから南をみる。わら屋の屋根がのぞく(*2:『新建築2023年4月号』(新建築社発行,2023)より。)
四国村ミウゼアムの案内図。とても広大で面積にして約5万m2にもなるそう
《おやねさん》脇のエントランスをくぐった先からは長大な登り坂が続く。巨大な石を敷き詰めたこの登り坂は国際的評価も高い彫刻家・作庭家である流政之氏による作品《ながれ坂》で、全長は231mにも及ぶ
《ながれ坂》の石標と《ながれ坂》中腹。四国村ミウゼアムには他にも流政之氏による作品が各所に点在している
左:《かずら橋》。徳島県の山奥でみられる伝統的な吊り橋を再現したもので、4年に1度掛け直されているそう/右:1800年代末頃に建てられたとされる石蔵は、移築の後に現在はミニシアターとして使われていた
なまこ壁が印象的な米蔵は江戸時代後期の建物で、四国村ミウゼアムではインフォメーションセンターとして活用されていた
インフォメーションセンター内観。この種の施設には珍しく、日本の民家らしい薄暗さが保たれた空間。日本の民家研究で知られる建築史家、伊藤ていじ氏によるメッセージも展示
インフォメーションセンター内観。写真や模型、映像が展示されている。柱の間に細かい間隔で配された丸太は米俵が壁にぶつかって漆喰が削れないようにするための配慮なのだそう*3(*3:四国村ミウゼアムHPより。URL:https://www.shikokumura.or.jp/guide/facilities/marugame-domain-official-rice-warehouse/)
童話の中に登場しそうな円筒形の小屋は、かつて砂糖づくりに使われていたものなのだそう。柱を建てることなく丸太を交差させることで茅葺屋根を支えている
アーチ状に石が積まれた太鼓橋も移築されたもの。アーチ頂部の楔石には鯉が彫られている
安藤忠雄さんの設計による《四国村ギャラリー》は、エリア内奥部に位置している。民家への意識が感じられる《おやねさん》とは対照的に、明らかに異質なコンクリート打放の建築が安藤さんらしい
《四国村ギャラリー》内観。四国村の創設者、加藤達雄氏の収集した美術品が主に展示されていて、ピエール・ボナールを始めとする画家の絵画作品の他、世界各地の陶器や民芸品などが並んでいた
《四国村ギャラリー》内観。躯体の隙間から自然光が差し込む。温湿度環境はさほど重視されていないのか、屋内外共にコンクリート打放で仕上げられている。彫刻作品が多い特性がこれを可能にしているのかもしれない
《四国村ギャラリー》内観・外観。溶融亜鉛メッキリン酸処理のスチールサッシや軒樋、2本並んだ竪樋など、安藤さんらしい要素が並ぶ。比較的コンパクトな建物ながら、安藤建築の特徴がふんだんに詰め込まれている印象
《四国村ギャラリー》南に設けられた《水景庭園》。こちらも安藤忠雄さんの設計によるものだそう
《水景庭園》。階段を降りた先には水盤が広がっているのみ、景観や空間をただ楽しむ贅沢な土地の使い方がなされている
《四国村ギャラリー》外観。この建築の最も奥にあたる階段の下から建物を見上げた姿が最も美しく見える。これも安藤さんの狙いだろうかー
エントランスの建物を手掛けた空間構想を主宰する川添さんは、東京大学で研究室も持たれている建築家。設計と研究の活動を並行されていることもあって国内で見られる作品は多くなく、こうした誰でも見られる建築は貴重に感じます。
建物そのものが展示作品という性質から、展示エリアも広大。古民家・古建築だけでなく現代建築にも見どころの多い施設なので、十分に時間をとって訪れることをおすすめします。
四国村ミウゼアム「おやねさん」
[竣工]2022年
[用途]エントランス施設(展示室、事務所等)
[設計]空間構想(建築)
[所在地]香川県高松市屋島中町91
[HP]https://www.shikokumura.or.jp
[参考書籍等]
・『新建築2023年4月号』新建築社、2023