香川県高松市屋島の山の上に、2022年に竣工した屋島山上交流拠点やしまーる(以下、やしまーる)。施設名に交流拠点施設と掲げられていますが、その実態は、展望台に多目的ホールやギャラリーが付属した複合用途の施設です。

この建築の設計はSUO+Style-A設計共同企業体が手掛けていますが、このグループの代表的存在である周防貴之さんは、国際的に有名な建築家ユニットであるSANAAから独立、直近では大阪万博のパビリオンなども手掛けている建築家。駅からは若干距離があるものの、新建築の表紙を飾るなど注目度の高い作品ということもあり、足を運んできました。

屋島山上にふわりとかかったリボンのような建築

やしまーるへのメインアプローチ。すぐ隣には同じ設計者によるれいがん茶屋(写真左手)が建っている。最寄駅である琴電屋島駅から歩いて1時間以上の土地に建っているため、筆者は駅からタクシーを使って訪問

やしまーるを南東から見る。建物はひとつながりの円環形状で、メインエントランスは建物に囲まれた中庭内に設けられている。ピロティ状に持ち上がった建物の下を潜ってエントランスへと向かう動線計画

中庭からの外観。建物全体が地形に沿って、うねるように建っている。屋根、スラブは共に薄くつくられており、軽やかな印象を受ける。空から降ってきたリボンが屋島山上にかかったような建築

やしまーるを2階から見下ろす。周辺は一帯緑に覆われた自然豊かな土地であり、展望台として機能する南東側以外は、建物高さが木々と同等かそれよりも低くなるよう計画されている

屋内外が重なっていく透明な展望施設

中庭より南東側を見る。直径100mmほどの柱でピロティ状に持ち上げられており、建物に囲まれた中庭内であっても景観に向けた開放感が維持されている

1階より中庭を見る。外壁は大部分がガラスになっており、建物内であっても屋外が非常に近く感じられる。曲面ガラスが連続する構成はSANAAの設計した《金沢21世紀美術館》や妹島和世さんの設計した《鬼石多目的ホール》を想起させる

2階内観。建物全体がスロープになっており、最も高い位置に計画された展望スペースに向けて登っていく。坂道を登るに連れて海側の風景が徐々に見えてくる空間体験は臨場感がある

左:展望スペースからの眺め。高松市から峰山あたりまでの風景を一望することができる/右:展望スペースからは屋外テラスに出ることも可能

動物のようにうねる屋根と床

建物内観。床の高さは最も低い部分と高い部分とで約6.6mの高低差があるそう。床の高さだけでなく通路の幅も様々に変化し、屋内外の風景が入り混じるようにして連続する。単純なようでありながら複雑な空間体験で、何周しても飽きない

ギャラリースペースから中庭を見る。屋内の照明は最小限に抑えられているため、空間の幅によって自然光による明るさが変化する。空間の幅は1.2mから6.3mにまで変化するよう。天候や時間帯によって空間の雰囲気が一変するのも体験を魅力的にしている

建物内より屋外を見る。中庭はエントランス広場、多目的広場、子ども広場の大きく3つのエリアにゆるやかにゾーニングされている。正面に見えるのは子ども広場で、円形のベンチが設置されている

建物内観。曲線の曲率も様々に変化しながら連続する

左:鉄骨柱と鉄骨梁、サッシのディテール。鉄骨は屋内外を問わず溶融亜鉛めっきで仕上げられている。屋内外を一体的にしようとした設計者の意図を感じられる/右:鉄骨柱と鉄骨梁、屋根のディテール。屋根の小口を見ると小さく分割した石材が屋根仕上げに使われていることがわかる

一筆書きの空間に同居する多様な場

左:やしまーるの館内マップ。空間の幅が様々に変化する様子が見てとれる/右:ひとつながりの空間に商品ワゴンが設置され、物販も行われていた

ギャラリースペース。建物全体がスロープ状になっているため専用の什器が設計されている。訪れたときは自然石などの重量物や器が中心だったが、様々な作品を展示する際にどのような方法がとられているのか気になるところではある

展望スペースの近くに配置されているカフェも通路との境界なくひとつながりの空間の一部を活用して設けられている。写真作品が飾られている他、テラス席も

左:映像作品が上映されているホール。壁を立てるのではなく天井から吊られたスクリーンによって明るさがコントロールされているあたりも設計者の意思が感じられる/右:屋島全体の断面図を描いた抽象画のような作品も設計者によるものだろうか

地域産材である庵治石

多目的広場を眺める。屋根材には小さく切り出された庵治石が使われており、三次曲面の屋根形状に合わせて割り付けられている。地元の石材組合の全面協力のもとで実現したのだそう*1

*1:2026年日本建築学会賞HPより。近傍のれいがん茶屋も含めた《屋島山上プロジェクト》として作品賞を受賞しており、業績紹介としてやしまーるが実現するまでの経緯を見ることができる(URL:https://www.aij.or.jp/2026/2026prize.html

敷地内の階段や擁壁には、この土地で出てきた屋島石や地域散材である庵治石が活用されているそう。外構の迫力もさることながら、その上にさらりと載せただけのように見える建物のディテールも簡単ではないはず

建物内外の各所に置かれたチェア。家具デザイナーが協力した記録が見つからないことから建築の設計者が自らデザインしたものと思われる。屋外に置かれたチェア(写真右)に使われているのも庵治石だろうか

やしまーるの設計者は、2015年から2016年にかけて実施されたプロポーザルで選定されていて、竣工までの年数を数えると約6年ほどかかっているよう。敷地を大きく使っているとはいえ、建物の延床面積は1,000㎡ほどなので、同規模の施設と比べるとかなりの長期プロジェクトだといえます。

この建築が位置している屋島は、その地形の特異性から国によって史跡・天然記念物に指定されている土地*2。こうした場所では計画や工事の内容を事前に国に提出し、許可を得なければならないことがあるので、そうした手続きに時間が必要だったのかもしれません。

先日2026年の日本建築学会賞が発表されましたが、この建築の設計チームを率いた周防貴之さんは、この建築を含めた屋島山上プロジェクトで作品賞を受賞されたよう*3。そのHPの中では業績紹介として計画趣旨が語られていますが、まず冒頭にこの土地の特徴を浮き彫りにするような建築を目指していたことが語られていたのが印象的でした。

*3:2026年日本建築学会賞HPより。(URL:https://www.aij.or.jp/2026/2026prize.html

新建築などのメディアで目にしていたときには現代建築としての独自性にばかり目がいってましたが、実際に訪れてみると、屋島の風景とこの建築とが、その良さを互いに引き立て合っているように感じられたのは新鮮な体験でした。

やしまーる
[竣工]2022年
[用途]ビジターセンター
[設計]SUO+Style-A 設計共同企業体(建築)
[所在地]香川県高松市屋島東町1784-6
[HP]https://www.yashima-navi.jp/jp/yashimaru/

[参考書籍等]*リンクはAmazon商品ページにジャンプします
・『新建築2022年9月号』新建築社、2022