星のや軽井沢|水景に寄り添う集落のような宿

日本を代表するリゾート運営会社のひとつ、星野リゾート。元々は1913年に星野温泉を開業、その後すぐに宿泊施設の運営も手がけるようになったようですが、2005年に創業の地である長野県軽井沢町に《星のや軽井沢》が誕生したことで、建築の分野でも一気にその名が知られるようになりました。
基本的には二泊以上でのみ予約可能と他のホテルと比べてややハードルが高いものの、家族の記念旅行で泊まってきたので宿泊記として残しておきます。
集落のような宿とその魅力を引き出すランドスケープ

《星のや軽井沢》の設計者は、東利恵さん率いる東環境・建築研究所。東さんはその後、すぐ近くに建つ《星野温泉 トンボの湯・村民食堂》や《ハルニレテラス》に加え、各地に建つ星野リゾートの設計も手がけていくことになります。

星野リゾートが手掛けるいくつかの施設を訪れて感じるのは、その土地を活かしたランドスケープが、空間を格段に魅力的にしている、ということ。《星のや軽井沢》の客室は、集落のように複数の棟に分かれて建っていますが、それらの間に設けられた大きな水景がこの施設の屋台骨のような存在になっています。

敷地全体としては、東から西に向けて登る起伏のある土地で、水景はそのちょうど中間あたりの高さに位置。大きく3つのタイプに分かれる客室も、それとの距離感を基にそれぞれの性格が与えられていました。

建物よりもランドスケープが主役であるかのような宿泊施設のありかたは、他ではなかなか味わえない、《ほしのや軽井沢》独特の体験を生み出しているように感じました。なお、ランドスケープの設計はオンサイト計画設計事務所の長谷川浩己さんが手がけています。
土地の地形を活かしたラウンジ棟、集いの館


《ほしのや軽井沢》を訪れて初めに辿り着くのが、黒御影石が各所に使われたラウンジ棟《集いの館》。黒御影石と聞くとピカピカの厳かな仕上げをイメージしますが、ここでは素材感が強く出る割肌仕上げが採用されていて、荒々しい山岳の風景を想起させます。


客室の建物が並ぶ西側に向けては大きな窓が設けられていて、戸外の風景が身近に感じられる設え。天井高もかなり高く設定されているので、屋内でありながらもテラス席にいるような開放感がありました。

館内奥には、土地の形に合わせるように設けられた階段状の着座スペース、お茶の間ラウンジ。段の上下で視線の高さをずらし、目線が合わないように配慮されていて、コンパクトながらも落着きある場になっていました。

自然の風景を活かしつつ、地形をそのまま形にしたような建物で、施設全体の設計思想が伝わってくる建築でした。ちなみにこの着座スペースは、朝夕食の時にはメインダイニング「日本料理 嘉助」の客席としても使われています。


生態系を継承する水のランドスケープ

《集いの館》から出た先に広がるのは、小さな滝が段々と流れ落ちる水のランドスケープ。稲こそ植えられていないものの、長野県各所でみられる棚田を彷彿とさせます。

まわりにはたくさんの木々が見られますが、これらはすべて元々この土地にあったものだそう。敷地外から新しく移植した樹木は一本もないとのことで、水草などの生態系もこの土地にあったものが選ばれているようです*1。
*1:『新建築2005年9月号』(株式会社新建築社発行,2005)より。

星野リゾートの公式HPに掲載されている東さんと長谷川さんの対談によれば、建物の配置を決めるプロジェクト初期から長谷川さんが参画、ランドスケープの視点も入れて議論を交わしてきたよう*2。建築とランドスケープのどちらが先かわからなくなる空間はこのようにして生まれたのか、ととても納得感があるプロセスでした。
*2:星野リゾート古式HPより。建築の設計者である東利恵さんとランドスケープの設計者である長谷川浩己さんの対談が掲載されている(URL:https://www.hoshino-area.jp/110th/column/001.php)

なお、《ほしのや軽井沢》の水景は、下流の水力発電に対する調整池の役割も果たしているそう。自然の力を風景としてだけでなく機能的にも活用しているあたりには、施設運営から建築、ランドスケープまで、合理性も追求する一貫性が伝わってきました。

個性ある3種の客室とそれらを巡る回遊動線
先述した通り、《ほしのや軽井沢》の客室は大きく3つのタイプに分かれていますが、それぞれ立地条件に応じた名前が客室に付けられているのが特徴。高低差のある敷地において、高い土地に建つ客室から順に《山路地の部屋》《水波の部屋》《街路地の部屋》と名付けられていて、それぞれ空間構成も異なります。



《水波の部屋》は、敷地の中間あたりの高さに設けられた水景に面して建ち、大きな窓から水景の変化を身近に感じられる客室。客室内の上部には自然通風を促すための換気塔(風楼)が設けられていて、中間期の冷房利用を抑えられるように計画されているようです。




《山路地の部屋》は、《水波の部屋》よりも高い土地に位置し、にぎわいから少し距離を置いた落着きのある客室。今回泊まった客室はリビングの大きな窓が中庭に向けて開いていて、周囲の視線を気にすることなく過ごすことができました。


《街路地の部屋》は、敷地の一番低い土地に位置し、ひとつひとつの建屋が路地を挟んで並び立つ客室。今回は宿泊できなかったことから内部空間を体験することは叶いませんでしたが、《集いの館》に近く、道の起伏も少ないので、バリアフリーの観点から言えば最も利用しやすい客室のように感じました。


こうした個性的な客室に加えて、そのまわりを一周するように、ぐるりと回遊動線が設けられているのも《ほしのや軽井沢》の面白みのひとつ。一般的なホテルだと、自分が宿泊する客室エリア以外には立ち入れないことがほとんどですが、この回遊動線によって敷地全体を様々な視点から楽しめます。

客室以外にアクティビティのための建屋も多くあり、散歩していたら一日が暮れてしまいそうな、ランドスケープの力を最大限活用した計画のように感じました。
…

《星のや軽井沢》の周辺には、《星野温泉 トンボの湯・村民食堂》や《ハルニレテラス》など、星野リゾートの施設が一体的に展開。冒頭でも触れた通り、これら一連の施設においても、建築の設計はすべて東利恵さんが、ランドスケープの設計は長谷川浩己さんが手掛けています。

星野リゾートの施設は軽井沢以外にも各地につくられていますが、《星のや軽井沢》以降は、その多くの設計を東利恵さんと長谷川浩己さんのタッグが手がけるように。特定の設計者が同じホテルブランドの施設を続けて手掛ける例はそう多くはないので、とても貴重な事例といえます。
設計者による創意工夫が宿の魅力を生み出し、それがさらなる協働の機会を生むという、事業主と設計者との理想的なパートナーシップであるように感じました。

星のや軽井沢
[竣工]2005年
[設計]東 環境・建築研究所/東利恵(建築)、オンサイト計画設計事務所(ランドスケープ)
[用途]ホテル
[住所]長野県北佐久郡軽井沢町長倉2148
[HP]https://hoshinoresorts.com/jp/
星野温泉 トンボの湯・村民食堂
[竣工]2002年
[設計]東 環境・建築研究所/東利恵(建築)、オンサイト計画設計事務所(ランドスケープ)
[用途]トンボの湯:公衆浴場、村民食堂:レストラン
[住所]長野県北佐久郡軽井沢町長倉
[HP]https://www.hoshino-area.jp/tombo-no-yu/
[参考書籍等]*リンクはAmazon商品ページにジャンプします
・『新建築2005年9月号』新建築社、2005
・『新建築2002年10月号』新建築社、2002






