*本記事にはアフィリエイト広告を含みます

リノベーションホテルが盛り上がっている昨今、観光地として賑わう金沢に2017年にオープンした《KUMU 金沢》(KUMU KANAZAWA)。内装設計を手がけたのはファッションブランドsacaiの店舗デザインなどで知られる建築家、関祐介さんで、建築の設計はエス・ティ プランニング、運営・トータルプロデュースはリノベーション事業を手がけるリビタが行っています。

一見して建築家が関わっているとわかるデザイン、かつ兼六園や金沢21世紀美術館とも近い好立地。金沢巡りと合わせ、一泊してきました。

観光地の中心、ホテル密集地に建つ

KUMU金沢 外観。遠くから見ただけだと見過ごしてしまいそうな素朴な外観。元々は繊維の商社が入っていたビルなのだそう
KUMU金沢 外観。遠くから見ただけだと見過ごしてしまいそうな素朴な外観。元々は繊維の商社が入っていたビルなのだそう

近江町市場と金沢21世紀美術館のちょうど中間あたりで、たくさんのホテルが建ち並ぶ地域に建つ《KUMU金沢》。遠くからだと見過ごしてしまいそうな素朴な外観ですが、元々は繊維の商社が入っていたビルを一棟丸ごとリノベーションしたもののようです。

時代を感じさせるタイルの外壁の中で、ホテル名を掲げた金色のサインが映える。建築設計を手がけたエス・ティ プランニングによるものだろうか
時代を感じさせるタイルの外壁の中で、ホテル名を掲げた金色のサインが映える。建築設計を手がけたエス・ティ プランニングによるものだろうか

時代を感じさせるタイル張りの外観に、細い文字による素朴な館名サイン。

KUMU金沢 夜の外観。全面ガラス張りの開放的な設えのために内部の木格子の姿が透けて見える
KUMU金沢 夜の外観。全面ガラス張りの開放的な設えのために内部の木格子の姿が透けて見える

遠くから見たときの素朴さとは対照的に、1階足元は、全面ガラス張りの開放的な設え。夜になると屋内の様子が照らされ、華やかな印象になりますが、こうした変化は比較的夜間によく利用されるホテル用途らしい設えと言えるかもしれません。

1階エントランス脇に並んだレンタサイクル。宿泊者に限って利用可能のよう
1階エントランス脇に並んだレンタサイクル。宿泊者に限って利用可能のよう

なお、観光地の中心地に建つ好立地を活かすためか、建物内にはレンタサイクルも設置されていました。

木格子に覆われたエントランスとカフェ&バー

KUMU金沢 エントランス。左手奥にはカフェ&バーが併設されている
KUMU金沢 エントランス。左手奥にはカフェ&バーが併設されている

道路に面した出入口をくぐった先は、天井一面が木格子に覆われた広々としたエントランスホール。すぐ目の前には、アイランド状のレセプション・カウンターが置かれていますが、その左手にはカフェ&バーも設けられています。

カフェ&バー。左手に見えるのは専用の出入口で、宿泊者でなくとも利用できる
カフェ&バー。左手に見えるのは専用の出入口で、宿泊者でなくとも利用できる

ホテルのレセプション・カウンターはカフェ&バーのカウンターも兼ねており、向かいではホテルのグッズも販売されている
ホテルのレセプションカウンターはカフェ&バーのカウンターも兼ねていて、向かいではホテルのグッズも販売されている

カフェ&バー側にも出入口が設けられていて、宿泊客以外も利用できるよう。店員はホテルのレセプショニストが兼任していますが、宿泊客の朝食などもこちらでとる形になるようです。

左:エントランスやカフェ&バーを覆う木格子。碁盤の目状に組まれた木材を、各交点で二本の吊り材で支持している。木の節もほとんど見当たらず、抽象的な表現に見える/右:耐震補強の鉄骨もそのまま見せた思い切りのいい設え
左:エントランスやカフェ&バーを覆う木格子。碁盤の目状に組まれた木材を、各交点で二本の吊り材で支持している。木の節もほとんど見当たらず、抽象的な表現に見える/右:耐震補強の鉄骨もそのまま見せた思い切りのいい設え

天井を覆う木格子は、碁盤の目状に組まれた木材を、各交点で支持したシンプルな設え。木材の節がほぼ見当たらないこともあって、どこかCGのような、抽象度の高い表現に見えます。

ホテルのラウンジ。エントランスやカフェ&バーと一体的な空間に設けられており、木格子の天井内には空調ダクトが仕込まれているのが見える。後述するように、家具もオリジナルのデザイン
ホテルのラウンジ。エントランスやカフェ&バーと一体的な空間に設けられており、木格子の天井内には空調ダクトが仕込まれているのが見える。後述するように、家具もオリジナルのデザイン

空調用のダクトが木格子の間を縫うように配置されていたりと、実際の施工はそう簡単ではなかったはず。そうした苦労を意識させないためにも、なるべくシンプルに見える設えが選ばれたのかもしれません。

夜のカフェ&バー。薄暗さのある落ち着きある空間
夜のカフェ&バー。薄暗さのある落ち着きある空間

荒々しい躯体現しと現代アート

左:レセプションカウンター奥のEVホール。タイル仕上げの壁や床があえて残されている。奥に残された鏡とカウンターもいいアクセントに/右:EV。出入口周囲の壁はきれいに整形されている
左:レセプションカウンター奥のEVホール。タイル仕上げの壁や床があえて残されている。奥に残された鏡とカウンターもいいアクセントに/右:EV。出入口周囲の壁はきれいに整形されている

エントランスホールの奥にあるEVホール周辺は、内装を解体した跡があえて残されたリノベーションならではの設え。元々どのように使われていたのか、丸鏡とカウンターがいいアクセントになってます。

EVホール向かいのアメニティ置き場。什器もオリジナルのデザインと思われる
EVホール向かいのアメニティ置き場。什器もオリジナルのデザインと思われる

階段室。宿泊階以外にも自由に行き来できる。改修前の床材を剥がした跡があえて残され、目地割のように見える。防火戸の戸袋が納まっていたと思われる壁の凹みもそのまま利用
階段室。宿泊階以外にも自由に行き来できる。改修前の床材を剥がした跡があえて残され、目地割のように見える。防火戸の戸袋が納まっていたと思われる壁の凹みもそのまま利用

元々の名残を感じさせる設えは建物内の他の部分でも見られ、例えば、階段室では防火戸が納まっていたと思われる凹みもそのまま。床にはPタイルか何かを剥がした跡が残されていて、床に目地割を入れたかのようにも見えます。

3階、5階共用部に設けられているシェアキッチン。内装を剥がしたコンクリートをそのまま現した荒々しい空間
3階、5階共用部に設けられているシェアキッチン。内装を剥がしたコンクリートをそのまま現した荒々しい空間

各階の共用部にはシェアキッチンやランドリーがありますが、その周囲の壁も、内装を剥がした後のコンクリートを現した仕上げ。新築の建物だとなかなかこういった仕上げは採用されにくいので、他のホテルとの差別化という意味でも、効いているように思いました。

シェアキッチンには電子レンジや電気ケトルなども置かれている。ところどころに配置されたアートワークによって洗練された印象を受ける
シェアキッチンには電子レンジや電気ケトルなども置かれている。ところどころに配置されたアートワークによって洗練された印象を受ける

6階共用部に設けられたランドリースペース。洗濯バサミを吊るして目隠しとした遊び心のある内装
6階共用部に設けられたランドリースペース。洗濯バサミを吊るして目隠しとした遊び心のある内装

こうした荒々しい仕上げの中、各階にはアート作品があり。ランドリーがある階には洗濯バサミを素材としたアート作品が配置されているなど、ディレクションの遊び心も感じます。

左:洗濯バサミからつくられたアートワークは金沢美術工芸大学出身の作家、高本敦基氏の作品/右:館内各所にも繊細なサイン
左:洗濯バサミからつくられたアートワークは金沢美術工芸大学出身の作家、高本敦基氏の作品/右:館内各所にも繊細なサイン

先のシェアキッチンでもそうですが、単に解体跡を残すだけでなく、木製家具やアート作品を加えることで、空間を洗練して見せているように感じました。

ミニマルな客室、木と樹脂の造作家具

客室《Moderate》内観。2ベッドルームのコンパクトな客室
客室《Moderate》内観。2ベッドルームのコンパクトな客室

宿泊した客室は、《Moderate》と名付けられた2ベッドルーム。1ベッドルームはなく、一人で宿泊するときも2ベッドルーム以上の部屋に宿泊することになるようですが、費用は一人分でよく無駄にかかることはなさそうです。

客室《Moderate》内観。コンクリートを現した無骨な天井と対照的に、内装や家具はオリジナルで丁寧に整えられている。洗面所への出入口は全面ガラス張りの大きな建具で隠されている(右)。
客室《Moderate》内観。コンクリートを現した無骨な天井と対照的に、内装や家具はオリジナルで丁寧に整えられている。洗面所への出入口は全面ガラス張りの大きな建具で隠されている(右)。

室内の設えはシンプルかつミニマルで、壁こそ塗装されているものの、天井は共用部同様にコンクリート躯体が剥き出し。ただ、家具や建具がオリジナルでデザインされていることもあり、空間としては丁寧に整えられているように感じます。

照明は必要最小限で、若干薄暗くはあるものの落ち着きのある雰囲気。

浴室と洗面所。シルバーの内装でインダストリアルな雰囲気に。木質部分以外は低彩度に抑えられている
浴室と洗面所。シルバーの内装でインダストリアルな雰囲気に。木質部分以外は低彩度に抑えられている

高級ホテルとはまた違った方向で、現代的な空間としての上質感のようなものを感じました。

左:デスクライトとして置かれているのはFROSの照明。全体的に照度が低く抑えられた落着きのある空間/右:テーブルやベッドもオリジナルのデザイン。突板練付と思われる木材と石を模した樹脂材の組合せはは館内のところどころで登場する
左:デスクライトとして置かれているのはFROSの照明。全体的に照度が低く抑えられた落着きのある空間/右:テーブルやベッドもオリジナルのデザイン。突板練付と思われる木材と石を模した樹脂材の組合せはは館内のところどころで登場する

なお、洗面台やテーブルといった家具は、突板練付と思われる木材と石を模した樹脂材を組み合わせた他ではあまり見たことのないデザイン。改めて見返すと、ホテルのロビー等にも同じデザインの家具が置かれています。

躯体を剥き出しにして内装費を抑える代わりに、家具にはしっかりと費用をかける。こうしたメリハリが、空間としての質の高さにつながっているように思いました。

客室階の案内図(避難経路図)
客室階の案内図(避難経路図)

建築やアートの街、とも言われる金沢で、せっかくなら建築家の設計したホテルに泊まりたい、という人は少なくない気がします。美術館を始めとする観光スポットと行き来しやすく、宿泊費も他の建築家によるホテルと比べると意外とリーズナブル。

いい意味でエッジの効いたリノベーションの空気感は他ではあまり味わえないので、満足度の高い宿泊体験ができました。

KUMU 金沢 by THE SHARE HOTELS
[所在地]石川県金沢市上堤町2-40
[用途]ホテル、カフェ・バー
[設計] YUSUKE SEKI(内装)、エス・ティ プランニング(建築)、リビタ(トータルプロデュース)
[施工]石黒建設
[開館]2017年
[HP]https://corp.shiseido.com/art-house/jp/